第12話『虚構と現実の狭間で……』
スクリーンの映像が止まる。ジェミナス02が撃破された場面が、まるで静止画のように映しだされていた。
先ほどの喧騒さが嘘のように、不自然なる静寂。その中で一人の男が言葉を紡いだ。
「映画とは素晴らしいものだな。幽世の出来事を束の間、忘れさせてくれる。そうは思わないか?」
その声は、墓守人の後ろから響く。
墓守人は答えるどころか、まるで見えない力で押さえつけられているように、体が動かない。そのため彼は、後ろへ振り向くどころか口を動かすことすらできないのだ。
男はまるで、墓守人とは旧知の仲のような、馴れ馴れしい口振りで語りかける。
「君の言った通り、現実は非情なものだ。あれだけ君は奮闘したにも関わらず、結果はどうだ?
悲しきかな、言うまでもないな。
英雄的かつ、鬼神の如き活躍――世界ためにあらゆる最前線に赴き、功労したはずの君が、今や、戦犯者という汚名の中へと沈んでいる。真実は加工されたフィクションに取って代わられ、もはや君は、世の中から必要とされない、負の存在と科した。君たちの指し示す非名誉な、負け犬というカテゴリーに」
「…………」
「皮肉だ。実に皮肉だ。だが、これが世の常というものか。なぁ――」
男は墓守人に、真命を囁く。もう誰からも呼ばれることはないはずの、真なる名を――
「そうは思わないか? ペリコム1」
その名を囁かれた途端。墓守人の眼前が白に染まった。眩しいほどの白。そして金縛りのように動かなかった体は、自由を取り戻す。
映画館という空間は消え去る。そして眼前に、真っ白に漂白された世界が広がっていた。
墓守人は急いで座席から立ち上がる。そしてホルスターから護身用のハンドガンを抜きつつ、その銃口を真後ろの男に向けた。
男に顔はなかった――いや、正確に表現するのなら、顔が認識できなかったのだ。七色に輝き、上下左右に小刻みに動く摩訶不思議なセルモザイク。それによって視認が阻害され、素顔が隠されていたのだ。
モザイクの男は、銃を突き付けられているにも関わらず、一切動じない。平然と、まるで彼のすべてを知っているかのような口振りで名を口にする。それは、死んだ戦友達が呼ぶ時に使っていた、慣れ親しんだ相性だった。
「いや。ペコ中尉と言うべきかな。その顔とは似つかない可愛らしい、あだ名じゃないか」
「反吐が出る。その名を口にしていいのは……友人だけだ」
「なにを言っている。私と、君との、仲じゃないか」
「まさか友人名乗る気じゃないよな。反吐どころか口から臓物出ちまうぞ。お前みたいなヤツを忘れられるものか。なにせ、光るモザイクで顔を隠す珍客だぞ」
「ククク……。その憎たらしい口調、本当に変わらないな」
男は指を鳴らす。すると顔を覆っていたモザイクが、全体へと広がる。そしてモザイクが収束し、正体が露わになった。
その正体は男ではなく、一人の幼女だった。
「私が誰か……分かる?」
そう訊かれた墓守人は、しばし幼女を見つめて考える。そしてまさかの解答に辿り着いてしまう。絶対に有り得ない、一つの答えに――。
「まさか――ジェミナス02?! お前なのか!!」
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