ペンギンの正体

 いつものように、鳥釣りが雲の上から釣り糸を垂らしていますと、熊が大きなバスケットを提げてやってきました。

「下は暑くてたまらなくてさ。夕方までここで涼もうと思って、お昼ごはんも持ってきたよ」

 バスケットの中にはたっぷりのサンドイッチと魔法瓶が入っていました。

「サンドイッチの具はなんだい」

「たまごサンドイッチと、鮭とレタスのサンドイッチと、いちじくジャムとハムのサンドイッチだよ」

「きゅうりはないのかい」

「僕はきゅうりは食べないよ」

 熊は鳥釣りの隣に腰をおろして、カップにお茶をそそぎました。

「きゅうりのサンドイッチが好きなんだけどな。きゅうりしか入ってないやつ」

 鳥釣りはバスケットの中を覗きこみながら未練がましく言いました。

「鳥釣りさん。糸引いてるよ」

 見ると、竿がぴくぴく動いています。鳥釣りは立ち上がって、注意深く引き上げました。

 かかっていたのは、ペンギンでした。

「なんだってこんなのが釣れるんだ」鳥釣りはいまいましそうに言いました。「ペンギンなんてお呼びじゃないんだよ」

 寒い国に住んでるはずの、飛べないはずの鳥なのに、どうして鳥釣りの竿にかかったのかと、ふたりは首をかしげました。ペンギンはきょとんとした様子でじっと鳥釣りを見上げています。

「料理して食べちゃえばいいじゃない」

 熊は、たまごのサンドイッチをもぐもぐしながら言いました。

「こいつは、なんか不味そうだ」

 そのとき、じっと立っていたペンギンが、ぐえっと魚を吐き出しました。

「それに、生臭いものは苦手だ。熊にやるよ」

 熊はペンギンが吐き出した魚を拾って傷がついてないのを確かめてから、「ぼく、これでいいや」と言いました。

 後ろでがさごそ音がするので振りかえると、ペンギンが餌のエビを食べようとしています。待て待てとペンギンを後ろから捕まえた鳥釣りは、ペンギンの尾羽の先っぽから、金具のようなものが出ているのを見つけました。

「何だこれは」

 鳥釣りが引っ張ってみると、金具らしきものは上のほうへ滑って、ペンギンの背中をまっすぐ半分に開いていきました。ファスナーだったのです。金具はペンギンの頭のてっぺんで終わって、そこからペンギンの白黒の皮がぺらんとはがれ、中から同じ色の、少し小さなペンギンがあらわれました。そのペンギンの尾羽にもやはり同じような金具がついています。それも持ち上げてみますと、またもやペンギンの背中が割れていきます。そして中からもっと小さいペンギンが。

「あれあれ」

 次々ペンギンの皮を剥いていって、最後の皮を剥がれたあとに立っていたのは小さな生き物でした。

「きみ、ペンギンじゃないね」

「はい……わたしはカワウソです」

 カワウソはぶるぶる震えながら、ことの起こりを話し始めました。

「わたしは体が小さくて泳ぎも下手なことから仲間うちでいじめられていたので、生まれ育った川を出てさまよっていたところ、ペンギンにならないかと誘われまして」

「ペンギンに?」

「はい。ペンギンスーツを着て南極を目指そう、と言われまして。ペンギン協同組合を名乗ってましたが、たぶん中身はペンギンではないのでしょう。わたしは寒がりなので断ったのですが、あれよあれよという間に無理やりスーツを被せられてしまってから、自分がカワウソだということを忘れておりました。そのまま南極に向かおうとしていたのですが、この暑さです。寒がりのわたしもまいってしまって、いっそ南極まで泳いで行こうと手近な崖から飛び降りたはずがこちらに……」

 カワウソはいっそうぶるぶると震えて、

「あの、わたしは、これからどうなってしまうのでしょうか」

 鳥釣りと熊は顔を見合わせました。

「とりあえず食べられることはないな。俺は鳥しか食べないから」

「僕は魚をもらったしね」

 熊がそう言うと、カワウソはほっとしてやっと震えがおさまりました。


 夕方になって熊とカワウソは一緒に帰って行きました。熊のねぐらのそばに川があるので、カワウソは近くに家を作ることにしたのでした。

「魚もとれるよ。それでその魚を、時々分けてくれてくれると嬉しいなあ」

 ふたりが雲を降りたあとも、鳥釣りは釣りをつづけました。カワウソのおかげで仕事がはかどらない一日でしたが、カワウソが残していったペンギンの皮を試しに餌にしてみると、これまでで一番大物のオオワシが釣れたので、鳥釣りもその日はご機嫌で家に帰りました。

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