あらしのばん

 ぴゅるるるる、

 と警笛を鳴らしながら、嵐がやってきます。

 鳥釣りは嵐にそなえて窓をしっかりと閉めました。ドアも閉めて、風で開いてしまわないように横木を渡しました。それから思い出して、たまにやってくる猫のために開けてある穴をふさぎました。

 頑丈に戸締まりをすませると、鳥釣りはろうそくを灯して本を読み始めました。そこへドアをごんごん叩くものがあるので、誰かいるのかいと聞くと、がるるる。と、唸り声が聞こえました。

「がるるる」

 鳥釣りも挨拶をして、横木を外すとドアを開けて熊が入ってきました。

「どうしたいこんな嵐の晩に」

「いや、ねぐらの近くの崖が崩れそうになっててさ、直すのが間にあわなかったから、鳥釣りさんとこに避難させてもらおうと思って。ほら、はちみつ酒も持ってきたよ」

「ああ、そりゃいいね。飲みながら嵐をやり過ごそうか」

 鳥釣りと熊が椅子にかけようとすると、ドアがごとんごとん鳴るので、

「風かね」と熊が言うと、

「風だろう」と鳥釣りも答えました。

 それからはちみつ酒をとぷとぷとカップに注いで、時間をかけて飲みました。

「うまいだろう」

「うまいねえ」

 またごとんごとんとドアが鳴ります。

「雨も強くなってきたようだね」

「そうだな」

 すると今度はがつんがつんと音が激しくなったので、鳥釣りがドアの前まで行って耳をすますと、

「開けて開けて」

 聞き覚えのない声に首をかしげながらドアを開けると、びしょ濡れのレインコートを来た男が立っていました。「郵便配達です」

「郵便?」鳥釣りは首をかしげました。

「俺に手紙など書くやつはいない」

「僕じゃないかな」と熊が口を出しました。

「いちど手紙ってものをもらってみたいと思ってたんだよ」

「残念ながら」郵便配達は申し訳なさそうに言いました。

「受取人は鳥釣りさんです」

 鳥釣りは筒状に丸めた葉っぱを受け取りました。結んであったひもをほどいて葉っぱを開いてみましたが、虫が這った跡が点々と白く残っているだけです。

「何て書いてあるのかわからない」

 郵便配達はレインコートのポケットから虫めがねを取り出し、葉っぱをのぞきこんで読み上げました。

「あ・ら・し……。ああ、"あらしがきますよ”ですな」

「知ってるよ。そんなに濡れてるじゃないか」

「そう言われましても。手紙にそう書いてあるのですから」

 郵便配達は文句を言いました。

「それに、まだ続きがあります。“か・い・た・ん・ち・ゆ・う・い”?なんのことでしょうな」

「階段注意だ」鳥釣りがぽんと手を打って叫びました。

「ああいかん。階段をしまうのを忘れていた」

 鳥釣りがあわてて奥のとびらを開けると、そこには雲へ続くらせん階段が雨に濡れていました。見上げると、はるか上の方が大風に揺られてかしいでいます。

 階段のすぐ横には丸いハンドルがついていて、鳥釣りがそのハンドルをぐるぐると回すと、雲へと伸びているらせん階段がしゅるしゅると縮んで下りてきます。ハンドルを回し続けてくたびれた鳥釣りは、熊に交替してもらいました。熊が腕が痛いと言うと、また鳥釣りが回しました。

 それでようやくらせん階段のてっぺんがみんなの肩の辺りまで降りてきました。


 ばりばりばり、


 と空が割れるような音がして、雨がいちだんと強く壁をたたき始めました。

「階段があのままだったら雷にうたれていたかもしらんな」

 鳥釣りはほっとため息をついて、郵便配達に椅子をすすめました。

「やあ助かったよ。すっかり階段のことを忘れてた。お礼にムクドリのパイでもご馳走するよ。熊特製のはちみつ酒もあるよ」

「本当ですか。じゃあ仕事も終わったことだし」郵便配達はうれしそうに答えました。

「そういや誰からの手紙だったんだ」

 郵便配達は葉っぱを裏返してしげしげと見ましたが、差出人の名前はありませんでした。

「なあ、鳥釣りさん。この手紙、僕がもらってもいいかい?」熊が遠慮がちに言いました。

「手紙って、出したことももらったこともないんだよ」

「かまわんよ。はちみつ酒をもらったし、階段をしまうのを手伝ってもらったからな」

 熊は鳥釣りから手紙を受け取ると、そうっと丸めて筒状にして、元のひもで結びなおしました。

「ああわかったよ鳥釣りさん、この手紙を出したのが誰か」熊がとつぜん叫びました。

「ほら」

 熊が差し出したのは、葉っぱの手紙を結んだひもでした。ひもはこよりで出来ていて、こよりの開いた部分には、小さな小さな稲妻の形が、“かみなり”という字とともに書かれていたのでした。

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