「愛してる、なんて」

 國橋君とアーサー君のLINEの内容はほとんどが、アニメとか漫画の話だった。國橋君がお勧めして、アーサー君がそれを見て感想を言ったりしていた。とても楽しそうな男のオタクの会話って感じだったのに、途中で唐突に國橋君が本気の恋愛相談をしていて、ちょっと面白かった。

 スクロールしていくと、ようやく、國橋君が言いたかったのだろう文章にたどり着いた。


アーサー『俺は、どうもみな美を愛しているらしい』

S.Country『知ってた』


 私の目はたぶん大きく見開かれていることだと思う。

 そのまま見てたらドライアイになるぞ、なんてアーサー君に注意されそうなくらいに、画面に見入っていた。


「愛してる、なんて」


 そんなことを直球にLINEで言わなくても。

 いやいやいや、そうじゃなくて。

 アーサー君が私のことを? いやいやいやいや。

 たぶんこれは、「娘に似た愛情」とか、そういうオチだ。そうに違いない。


 そんな私の考えを、國橋君は予測していたかのように、『一応聞くけど、家族愛とかそういう類ってことじゃねえよな』とアーサー君に質問を投げかけていて、アーサー君の答えはNO。


アーサー『一人の女性として、人吉みな美を愛してる』


 そんな文面が、私の目から脳に、心に送られてきて戸惑った。

 アーサー君も戸惑ってたみたいだ。

 だって、アーサー君と私は吸血鬼と人間なのだ。

 そんなことをはありえないと思ってたし、私もそういう風にアーサー君を見ることはないだろうと思っていた。というよりも、私はそういう感情に縁がなかった。お父さんとお母さんを見ていたら、自然とそういう感情から自分の考えが遠のいてしまったのだ。

 だから、アーサー君を男性として見るか見ないか、で言うなら私はきっと見ない。いや、男性として意識した男の人なんて、いないのだけど。


「どうして、そんなことを」


 アーサー君が私をそういう風に見るようになった理由は、そこから先の二人の会話からは読み取ることはできなかった。というよりも、私に対する会話はそこから、アーサー君が私との距離の近さに対して、苦しみを覚えたところまでだいぶすっ飛んでいた。


 男の子はその辺がすっ飛んでも、なんとも思わないものなんだろうか。


アーサー『みな美を傷つけたくはない』

アーサー『だからこの気持ちを隠しておこうと思う』

S.Country『やめとけ』

S.Country『無理だから』


 そして國橋君の言った通り、アーサー君は気持ちを押し殺してられなくなった。「苦しい」「辛い」「愛おしい」その単語が混ざり合って、それでもアーサー君は私を見捨てられなくて、そして、一度距離を置くことにした。だから今、アーサー君は國橋君の家にいるのだ。


「私、は」


 アーサー君とこのまま一緒にいていいのだろうか。

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