「え、嘘。待って」
國橋君とアーサー君のLINEを目にした私は、スマホを手に取って、パソコンに映し出されている、二人の会話を写真に収めた。それからその写真を國橋君に送りつける。『この会話はどういうことなの?』、という文章付きで。返事が返ってくるのは2時か、3時。あと3時間から4時間の間、待たなければならない。
「よかった」
アーサー君の居場所の手がかりがつかめた。
私は、少し安心して、そしたら目の前が歪んで見えた。
ぽたり、と何か膝に落ちた。なんだろうって見たらズボンにシミがついていて、すぐににじんだから汚れじゃないなぁ、なんて考えて。自分が泣いていることを自覚した。
アーサー君がいなくなって、泣いて。
アーサー君の居場所がわかって、また泣いて。
まるでアーサー君が行方不明の息子で、私がお母さんみたいだ。
でも心配されてるのは私の方で、心配してくれてたのはアーサー君の方だから、いろいろあべこべだ。そもそも私たちの関係は同居人以外の何者でもなかったはずなのに。
「どうして、アーサー君は出て行っちゃったんだろう」
そこが問題だ。
自分を責めるばかりだったというか、アーサー君が出て行った理由に「私が何かしたのだろう」という仮説しかたたなかった。でも、アーサー君が仮に私を嫌いになったとして、ご飯を作ってくれていた意味が分からなくなってくる。
「おなかすいたな」
残しておくのもなんなので、肉じゃがを食べることにする。
お皿に移してレンジでチン。
肉じゃがのいい香りがしてくる。そういえばまともに今日食べたのチキンだけだったことを思い出して、余計におなかがすいてきた。
絶対太るんだろうなと思いながら、タッパーにあるものをぱくぱくと口に放り込む。
ふとスマホを見ると、新しいLINEが来ていることに気づいた。國橋君からだった。
『俺とアーサーのやりとり全部読んだ?』
謝罪の言葉でもなければ、アーサー君の安否でもなく、帰ってきていた返信はそれだけだった。時刻は12時14分。トイレに行っている間にスマホに触ったのだろうか。とりあえず、もう一度パソコンを操作して、國橋君とアーサー君のやり取りをさかのぼる。
最初の会話。あのご飯を食べに行った日くらいだ。最初は國橋君から連絡を取ってる。それにアーサー君が返して行って……。
「え、嘘。待って」
意外な事実の情報が目に入ってきた。
「國橋君、夕夏ちゃんのこと好きだったの!?」
そ、そういえば結構絡んで……。いや、絡んでる回数とかだったら蛍ちゃんの方がアニメの話してるけど、あれはオタク友達ってこと?
悩んでいたら國橋君から電話がかかってきた。時間は1時半。ご飯食べたりなにやらをしていたら、こんな時間だったらしい。というかこんな時間に休憩もらったのか。
『もしもし、読んだ?』
「うん、びっくりしたよ」
『だろーなー。でも結構真剣に悩んでたんだぜ?』
それは、そうなんだろうけど、何で今私とアーサー君のことで夕夏ちゃんと國橋君の恋愛事情が関係してくるのだろう。
とりあえず言うべきことは一つ。
「國橋君、夕夏ちゃんのこと好きだったなんて! お姉さんに何で早く相談しないの!」
『そこじゃねえ!!』
全力の突っ込みが返ってきた。
『もう、バレたのはこの際どうでもいいや。もうちょっと後、読み進めといて、口で説明するのしんどい』
「あ、うん」
『どうせ朝まで起きてるの得意でしょ。終わったら連絡するから、俺ん家来て、アーサー引き取って二人で話し合って』
「わかった」
國橋君は優しいなぁ。いい子だなぁ。
幸せになってほしいなぁ。
そんな思いから「応援してるね」とLINEを送ると、短く「ありがと」と返ってきてそれから、「でも自分のことちゃんとやってから応援して」って付け足された。しっかりしてるなぁ。そういえば妹さんいるって言ってたっけ。有村さんも妹いるし、下に兄弟いる人ってしっかりするんだなぁ。私は全然そんなことないのに。凄いなぁ。
そんなことを考えながら私は、2人の会話を読み進めていった。
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