「私を嫌うか、興味がなくなるか」

 アーサー君の様子がおかしい。

 普段通りと言えば普段通りなんだけど、適度に距離を保たれてる。甘やかしに拍車はかかっているものの、私がにじり寄ったりすると距離を置かれてしまう。


「男の人から急に距離をおくってどういうことなの、國橋君」


 仕事中。ちょっとした暇な時間になんとなく雑談として、國橋君に話を振ってみた。大体のことは終わっていて、私は上がるまであと五分。何もすることがない上がることもできないこの五分は苦痛でしかない。そして國橋君もやることがなさ過ぎてフライドポテトの仕分け作業に入っていた。


「えー、そいつを嫌いになったとか、そいつに興味がなくなったとかじゃない?」


 國橋君それは一体どう違うの?


「アーサーのことでしょ?」

「何でわかるの?」


 というか、國橋君いつの間にアーサー君のこと呼び捨てにしてたの?


「アーサーと俺、しょっちゅうLINEしてるよ」

「え、うっそ!?」


 そういえば、最近ちょっとパソコンでなんか文章打ち込んでるなと思ってたけど、そんな交流をしていたなんて。


「男目線で面白いアニメないか―、とかそんな話しばっかだけどね」

「へー。なんか意外」


 ああ、でも一回國橋君がアーサー君のLINE教えてって言ってきてその時教えたんだった。忘れてた。そんなおいしい情報を忘れているなんて、腐女子失格……。

 おいしいなぁ、黒髪チャラオタクイケメンと、金髪のイケメン吸血鬼。受けはどっちだろうか。國橋君かなぁー。あー、でもアーサー君が誘い受けでも可だな。


「腐った妄想一回解除してもらっていい?」

「ごめん」


 私の考えていることがわかるとは、國橋君恐るべし。


「まぁー。うん。男っていろいろあるんだって」

「ふーん。國橋君もいろいろあるんだね?」

「ある、うん」

「ちなみに女の子関係?」

「うん。だから俺とアーサーがくっつくことはないってことで」

「そこはほら、私の脳内と現実が違うことは重々承知してるから大丈夫」


 國橋君は「やっぱ、人吉さんのそういうとこ俺好きだわー」なんてからかって笑って。「惚れちゃだめだよ」って冗談で誤魔化しながら、私はタイムカードを切った。


「アーサー君が私を嫌うか、興味がなくなるか」


 それは多分どちらもいっぺんに解決は可能だ。

 アーサー君が私の家から出て行っちゃえばいい。行くところがないとはいえ、定期的に血を提供しているとはいえ、私のことを嫌いになってしまったのなら、どこへでも行ってもアーサー君はきっとうまくやっていけるだろう。


 だからアーサー君が私のことを避けてるのは別の理由だ。


 國橋君が答えを出せないとしたら。今いる男性の従業員は上野さんしかいない。そんなわけで上野さんが日報の打ち込み休憩室に来るのを待って、私はさっきと同じことを尋ねた。


「例の同居人?」

「はい」

「まぁ、俺としては大体予想つくけどね―」


 パソコンに向いていた目をこちらに合わせて、上野さんの眠そうな瞳が細められる。


「そうなんですか?」

「うん、俺もひなちゃんとおんなじ状況になったらって思うと、無理。絶対無理だもん」

「ひなちゃん……」


 って宵風さんか。

 宵風さんと上野さんが同居することになったら、上野さんが耐えられない? 逆なのでは?


「好きな人と一緒に居られるってすごいいいことなのでは?」

「んー。どういったらいいかなー。女の子にこんな話すんのもどーかと思うんだけどさー」

「はい」

「俺としてはひなちゃんとヤリたいわけ」

「あ、あー……」


 は、反応しづらい。

 女の子に話すのもどうかと思うわけだ。


「でもまぁ、大事にしたいなとも思うわけ」

「はい」


 う、上野さんそんなこと考えてたんだ。ただの構ってちゃんのさみしがり屋だと思っててごめんなさい。上野さん意外と紳士!


「そんな状況で一つ屋根の下。生殺しにもほどがあんじゃん?」

「そうですね」


 推しCPに置き換えてみる。それを読者視点から見てる分にはとても楽しいし、萌えるだろうけど当人にしてみれば厄介でしかないんだろうなぁ。でもその状況おいしいな。今度ツイッタ―で呟いてみよう。

 あれ、でもその話、私の相談と関係してるのかな?

 口に出して言ってみると。


「だからー、その同居人君が、みっちゃんのこと好きになっちゃったんじゃないかって言ってんのー」


 なんて、上野さんが呆れたように口にした。

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