「私、昔お父さんに殺されかけたことあるんだ」
しっかりしないといけない。私の思う「しっかりしないといけない」にアーサー君は不要。だけど、アーサー君は私に必要な存在で。なんか矛盾してる。
でも矛盾してる考えなんて皆持ってるもので、どっちかっていうとアーサー君にこのままいてほしいという気持ちが今のところは勝っている。
そして、そのことについて考えていたら、ある一つの疑問にたどり着いた。
なんでアーサー君は出ていかないんだろう?
行く当てがないといっても、イギリスから日本に来た時点でそんなものはないのは承知だ。私みたいなお人よしは稀だということを差し置いても、一晩泊めてくれる人なんていくらでもいるだろうし、アーサー君は簡単に死なないから野宿をしたっていいはず。なのに何故出ていかない?
「アーサー君はさ。なんでここにいるの」
「唐突だな」
「うんごめん。でも気になって」
アーサー君がカレーをテーブルに運んでくる。
食欲を刺激するいい匂い。インスタントコーヒーが隠し味なアーサー君のカレーは本当においしい。
「お前が放っておけないから」
「え?」
「お前があまりに無防備で、楽観主義だから。放っておけない」
私が、放っておけない。
「無防備」、「楽観主義」。両方ともよく言われる言葉だ。だから「危機感を持て」って注意される。
「だからここにいることに決めた。助けてもらった恩もある」
「後だしで、『恩』って言われてもなぁ」
「許せ。一番最初に出てきた理由がそれだったんだ」
私が放っておけない、恩がある。
前の農家とかはどんな理由で居たのだろう? 大変そうだったから、とかなのだろうか。
「前の所はどうやってたの」
「前のところはそれぞれ家族がいるところにしか行ってなかったからな。それぞれ頼る存在がいたし、頼ろうと思えば頼る人たちだった。ただ、お前は違う。お前は最初からおかしかった」
「何で」
「血を吸おうとしたとき、お前は拒絶も逃げもしなかった。襲われることを受け入れてさえてさえいた。結果的にそうはならなかったが、俺はお前を最初半殺しくらいにはするつもりだった」
まさかのカミングアウトだった。
そんなこと考えてたのか、私あの時死にかけてたんだ。
「お前の肩の凝りようは異常だった。どんな生活してるんだと思ったよ。その上お前は、『うちに来る?』なんて言い出した。なんでこいつはそこまでできる。たった今殺されそうになったのに」
「その上、自分が吸血鬼だと理解してる?」
「そう。お前は俺が吸血鬼だと理解してた。血を与えたらすぐ出ていけというのかと思えば、そうじゃない。それから言った言葉が『死にかけたこともある。今更異性に襲われたくらいではビビらない』」
「言ったね」
「お前は、人に頼らないどころか、生に対する意識さえ薄い。いつ死んでも構わないと思ってる。違うか」
見透かされている。
あの赤い瞳は全部見透かしている。
私は生きたいとそんなに強く思っていない。アーサー君が怖いなんて一瞬で思わなくなった。
「凄いね、吸血鬼はそこまでわかるの?」
「まぁ長く生きてきた故の勘というのもある」
「勘かぁー」
勘ならまぁ、仕方ないか。
隠していたわけじゃないけど、今更ながら過去を語るとしよう。
「私、昔お父さんに殺されかけたことあるんだ」
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