「一人になりたいわけでは、ないんです」
「有村さんと上野さんって仲いいですよね」
腐女子脳の人間としてはありがたいことに。うちのバイト先では男性同士が仲がいい。いや、常にそんなことを考えているわけでは……あるけど。
「そうかな? まぁ年齢そんなに変わらないし」
「休みの日は大抵一緒にツーリングしてるしー」
「え、そんなにしてた?」
「一緒の日は」
何だって? うちのバイト先で深夜帯の責任者である二人の休みが被ることなんてあんまりないのに、被ったら大抵一緒に過ごしている……だと。
「だって有村さんに『ひまー』ってLINEしたら構ってくれるからさー」
さすが当店きっての構ってちゃん。
ただし、この手のLINEを送るのは男子くらいらしく、私は誘われたことがない。
「俺は暇だから。仕事以外にあんまり一人で外に出ないし」
「そうなんですか? 意外ですね」
「というか、寝てるんだよね。寝倒してる」
「あー」
深夜勤務が続くと朝は寝て、夜は起きるというサイクルがどうしてもできてしまって、それによって体は疲れて、眠れると思ったら起きないことがよくある。私はそれを考慮して3時に上がったりしているのだけど。6時まで働くなんて、私の体では無理だ。
「寝てるときに上野からLINE来るから、行くか―ってなるんだよね」
「仲いいんですね」
「一人で食べるごはんおいしくないから」
心の底から同意する。
私のお家に帰ってからのご飯が美味しいと思うようになったのは、もちろんアーサー君の腕前もあるけど、1人で食べるものじゃないからだ。
「上野さん彼女は?」
「居たり居なかったり」
曖昧な返答。
「今は微妙な関係なんだよなー? 進展なし?」
「みっちゃんとイケメン君ほどじゃないけどねー」
顔にはおそらく出てないと思うけど私は今心底驚いている。上野さんに好きな人がいるとは思いもよらなかった。
いや、勝手なショックではあるとわかっているんだけど。わかってはいるんだけど。でも上野さんは彼女がいない状況で有村さんと絡み続けてて欲しかった。無念。
「どんな人なんですか?」
「んー」
そういいながら、上野さんはちらりと休憩室の方を見る。
そこにいるのはまだ帰ってない宵風さんだけだ。しかし、宵風さんからはこっちの話ている声は聞こえてないだろう。何故そちらを見るのかは、検討はつく。
「まじめでー、ちょー固いんだけど、面倒みよくてー。実は寂しがり屋さん」
「へー」
宵風さん寂しがり屋なのかな? そんなイメージ全くないけど。でも、いつも誰かのことを気にかけているから、誰かの側にいたがっているからこその行為なのだと思えば、寂しがり屋という言葉に納得はいく。
「面倒くさそうですね」
「そこが可愛いの」
にへら。と笑う上野さんがとっても幸せそうで。
うわー、リア充な笑顔だー。恋してる人の笑顔というのは実際こういうものなんだと実感した。アニメで見てるよりもはるかに幸せそうなんだというのが伝わってくる。
なんか、いいな。
「人吉ちゃんは? あのイケメンとはどうなった?」
「だからどうもなってませんよ」
有村さんは、どうもアーサー君と私がどうにかなると思ってしまっているらしい。というかうちのバイト先の皆はそうだ。國橋君、蛍ちゃん、有村さん、上野さん。本人を見たことない紗姫ちゃんでさえそう。
「イケメンと一緒に暮らしててなんも思わない?」
「甘やかされてるなぁ?」
「それだけ?」
「あとは、最近堕落してることに気づいたので、もっとしっかりしないと」
「もう十分しっかりしてると思うんだけどなぁ。人吉ちゃんは」
いや、だって最近は本当に家にいるときは何もしてないのだ。
これは危機だ。これではお嫁に行けなくなる。
行きたいとも思ってなかったけど、いざとなったときに不安で。
「じゃあさ、早いとこイケメン君に出てってもらえばいいんじゃない?」
「あ……」
今気づいた。私が何かをし続けてたのは、一人だったからで。誰かに何かをして貰わないでおこうとすると、一人になる必要があって。
「一人になりたいわけでは、ないんです」
一人になりたくはない。
アーサー君に今出ていかれるとそれはとても困る。
何故? ご飯がおいしいから? マッサージがうまいから? オタク話に付き合ってくれるから? 多分全部なんだろう。
いつか、アーサー君は出ていくと思っていたのに。
今出ていかれると困るなんて、贅沢な話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます