「……甘やかし過ぎじゃないかな」
さて、アーサー君と暮らすようになってしばらく経つけど。アーサー君の吸収力が半端ないことに驚いている。アニメについてちょっと教えたら、私がわからないところまでわかるようになってる。
「あれ、こんな伏線あった?」
と私がぽろっと漏らした独り言に。
「一期にあったな。アーティのメイン回があっただろ、あの後だ」
「アーサーしか見てなかった……」
という私のアーサーにしか目が行ってなくて見逃した伏線の解説をしてくれたり。ちなみにアーサー君は、私の好きなキャラクターの方のアーサーのことを「アーティ」と呼んでいる。紛らわしいからだそうだ。
「っていうかアーサー君いつの間に一期見終わってたの!?」
「お前と違ってニートだからな。それくらいの時間はある」
ニートとか。
この間まで「ニートとフリーターの違いってなんだ」とか聞いてた吸血鬼が、ちゃんと使いこなしているだと。
「アーティはアリサとくっつきそうだな」
「やめて―! 公式ではそっちとくっつくとわかっていても、腐女子としてはアーサーはヒロトの彼氏なのー!」
「ヒロトには千尋がいるだろ?」
ちゃんと登場人物全員把握してるし、誰と誰がくっつくかの予想もちゃんとできてる。凄いけど、めちゃめちゃ凄いけど把握しすぎだよ!
「というか、みな美。お前はアーティのことが好きなんじゃないのか? アーティとヒロトがくっついたら、お前の入る隙は無いじゃないか」
「元から私ごときがアーサーとヒロトの間になんて入れませんー! どちらかというと私は『ヒロトのことが大事だから』ってアーサーに振られたいんですー!!」
「その意見がわからないのは俺の日本語理解能力がないからか? 英語でわかりやすく言ってもらっていいか?」
「ごめん、これわからなくていいやつ」
それでもアーサー君は「なるほど」と呟いた。どうやら私のねじ曲がった意見を頭の中には入れているようだ。入れなくても別にいいのに。
そんなことを話し終わっているうちに、エンディングが流れ始める。
「次、『ミュージカル』見ていいか」
「あ、気に入ったの?」
「曲が素晴らしい」
「わかる」
アニメの好みまで出てきていた。
というより曲の好み? 『ミュージカル』はその名の通り、ミュージカルを学ぶ少年たちが描く学園青春もの。本当に声楽とかそういうことを学んできた声優さんたちを起用しているらしく、声優さんが本当に歌を歌っているらしい。
「アーサー君も立派にオタクだねぇ」
「というより、オタクの基準って何なんだ? 深夜アニメを見始めたらか? アニメに詳しくなったらか? アニメのキャラクターを演じている声優を当てられるようになったらか?」
「その辺の話を始めたら永遠に終わらないからやめよう」
オタクはどこからか。と言うと本当にそんな話をしていたら夜が明けてしまうし、絶対に喧嘩になるからやめておいた方がいい話題の一つだと思う。
「その前に、プリン食べるか」
「え、あったっけ?」
「隣の人が卵を大量買いしたらしくて、くれたから作ってみた」
「そんな交流までしてんの!?」
いつの間に。
でも、そうだ。私の活動時間が昼からになったから隣の人とも交流できるようになって、だからこそのおすそ分けだったりするのだろう。
それも、アーサー君のおかげか。
「なんだ、じっと見て」
「ううん」
アーサー君はプリンとスプーンを渡してくれた。自分の分をテーブルに置いてからリモコンを操作している。
「あれ?」
「なんだ」
「今日私動いてない!」
「お前が家から出ないことなんていつものことだろう」
「そうじゃなくて!」
ロフトから降りてきて、トイレ行ってからテーブルの前から動いてない。飲み物もアーサー君が取ってくれてるし、ご飯も目の前にぱって出てきたし、デザートのプリンとか、リモコン操作さえアーサー君に任せてる。
「こ、これは堕落してる! 私堕落してる!!」
「太ってはないと思うぞ」
「そうじゃない!」
これは社会人としてダメだ、自立した意味がない。
洗濯とか買い物とかはしてるけど、それ以外何もしてないよ。どうしよう。
「お前は」
プリンを食べつつどうにかせねばと頭を悩ませていると、アーサー君がつぶやく。
「お前は、人に頼り過ぎるくらいで丁度いいんじゃないか」
「でもこれはやり過ぎだと思うの」
「俺が勝手にやってることだ。気にするな」
アーサー君はそういって、私の口元を親指で拭う。
多分プリンの上に載ってたクリームが多分ついてたんだろう。それを舐めながら、赤い瞳で私を見つめた。
「……甘やかし過ぎじゃないかな」
「こういうとき『おまいう』って言うんだろ」
だからアーサー君、覚えるの早すぎ。
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