「させないよ。」

涙はもう、流れなかった。

外から見えた船長室。

薄笑いをしているその人と兄を凝視した。

「話を、しましょう?」

兄は、もう、気づいているのだろうか?






「アルテミス…」

兄は、あの時の姿であの時のような笑顔をしていた。

「兄弟の再会の儀式はあとにしてくれ」

オルカは冷酷そのものだった。

「アルテミス…だったよな。」

「そう。でも、苗字は変わった。」

あの人の名前。

「お前は海に落ちてもらう。」

「いいえ、出来ないわ。」

だって…

「月は浮あがることしか出来ないわ。」

月夜に照らされた其の顔はアルテミスの顔では無かった。

「…お前が、無の神か?」

「いいえ、私は無の神の欠片。人は私をフェザーと言うの。」

そして

「あなたは有の神の欠片。名前はないわ。」

そう言われると隣で優しい笑みを浮かべていた、アトランティスは。

あぁ、絵本に載っていたような。

そんな人になっていた。

「ほう。いつから気がついた無の破片。」

「貴方が、あの泉を使った時からよ。」

全てを繋ぐ全ての元凶の泉。

「我が欠片。ならば我を殺すか?」

「いいえ、貴方の呪いを解くだけよ」

月は消えた。

覚醒月が完全に終わった。

「出来ぬことを言うな。お主は我に生かされたのだ。この呪いを解くにはソナタの死が必要。」

「そんなものは要らない。」

月は、欠けてゆく。

「私は貴方を解放できる。」

胸にぽんと手を置く。

「滅びれ厄病。命に触れるな。」

「ほう。欠片であれ無は無なのか。」

オルカは理解できない。

そんな顔でこちらを見た

「だが、我が呪いはこの地を一度は這った。我を殺すことはソナタにはできない。」

「ああ、知っている。私も、お前も、終焉を告げるものは一緒だ。」








眠る兄と共に、ガイダンスルームに向かった。






「…オルカ殿」

「…!?」

朝日が昇る

窓は柔らかな光を迎えている。

「私は、兄弟達からの愛で正しいものを見てきました。」

白と黒のブーツを高らかに響かせ歩いてくる青年。

「オルカ殿。このくだらない争いにピリオドを打ちましょう」

黒髪を爽やかに靡かせる。

「この戦いで、私たちが失ったものは、とても多い。」

だから。

「この戦いはザハールの負けです。」

「…お前はその、黒蝶なのか?」

不思議な色の目を細め優しい笑顔を出した。

「いいえ、私はマルガリータ。本来ならザハールの国王だったもの。」

「マルガリータ…?」

手を差し伸べられる。

「これからについて、話しましょう。さぁ、ガイダンスルームへ。」

優雅すぎる手つきでエスコートされる。



ガイダンスルームには、全員揃っていた。

「まずはティス。お前はどうするんだ?」

「俺はまず親の首を取りに行かないとな…。馬鹿な戦争に巻き込まれて生贄になった奴もいるんだ。そのためには、やはりこれしか…。」

ティスは有の欠片では無くなったようだ。

「私はその後にザハールの王となろう。…あの人たちについてはもう知らない。」

マルガリータは、ただの好青年になった。

王族にしては相応しい程に。

「僕も、ムールに帰る。母さんに会いに。それからクリスタルにもね。」

「私は真っ直ぐクリスタルに帰って今度こそ女にしてもらうの!」

この兄妹、いや、友達?よく分からないけど。なんだか幸せな予感がする。

「アルテはどうするの?」

「んーと。お兄様の政治をある程度支えたら、みんなが暮らしていた場所を訪ねるつもり。」

彼女らしい答えだ。

「…少し、いいか?」

「どーしたの?ニュー船長」

彼らには、伝わっていないのだろうか。

この掟は。

「この船で起きたことはこの船の中で全て無くす。つまりだ。」

皆、大切な人を失ったばっかり。

それなのにこれは、酷な話だな。

「海に還した者達のことはこの船を降りたらもう、話すことも関わることもできない。」

空気が冷たくなった。

「親とかにサラッと告げるのはいいがそれで終わり。」

「…ねぇ、オルカ。泣くのはやめてよ。」

幼なじみは、静かに笑った。

「オルカはさ、大切な人を亡くしたのは私たちだけだと思っているでしょう?」

「違うのか?」

汗だと思っていたものは涙だったらしい。

「オルカは家族同然だった。大親友だった。ライバルだった。帰る場所だった人を亡くしたんだよ。これから、もう二度と共に歩めなくなった大切な人がいるんだよ。」

「か…い……!!!」

そうだ、俺だって。

俺だって会えない話せない人がいるんだ。

「そうだ…俺…この船から降りたら…一人、ぼっち。」

蒼氷も涙を流した。

「嫌だ、あぁ。海!、海!」


置いてかないで。


その一言は皆の心をもう一度悲しみに動かした。

「オルカ、一旦落ち着いて。」

「でも、だって!!」

「ジャック!!!!」

彼の動きが止まった。

「まだ、この船はサイールつかないんだよ。だからね、」

あの時、

孤児院で初めてであった時のように微笑まれた。

「彼らを弔って、思い出話たくさんして、しっかり、お別れしよう」

そう言われた。

そうだね。

沢山、お話しようね。

海。

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