お前は、誰?
「黒蝶…でいい?」
「…いいや。」
残された俺ら。
大切な人を、腕の中に入れてしばらく泣いていた。
「それじゃあなんて呼べばいい?」
「…思い、出せない。」
兄の前で話したくないから言わなかった。
「…兄さん、行こっか。」
返事はしないが、どこかで、おうっ。
そんな声がした気がする。
最後の日に最期の別れを沢山した。
もう、これ以上失いたくない。
それに、
「兄弟を見捨てた、みんなを見捨てたあの国に帰りたくない。」
そう、呟いた。
兄を、抱えてたった弾みのせいなのか?
涙を手でふかれた。
「海に、還ろう。」
アルテミスのいる反対側の外に歩いた。
日は、沈んだ
穏やかな月明かり。
夜風が冷たく心地が良い。
兄さん。
先に弟が逝ったんだ。
寂しく、ないよね?
「皆の、名前を。皆の、目を背を背負ってこれから生きなくては。」
月よ、海よ、星よ、石よ。
我が兄を頼む。
目を閉じ、力を抜く。
水しぶきが顔にはねる。
目を開けると兄はもう遠くにいた。
船が進んでいるから
沈んだ兄。
進む俺。
──新たなるパールの王よ。
自分は王になどなれない。
──なることが、運命
わかっている。
──お前の名は黒蝶では無い
なら、なんだ?
──ブラックでも、楽でも無い
じゃあ、なんだ?
──ソナタの名は遙か昔から決まっている。
ほう。
──お前の、本当の名は………
「奪。ほら見て、夕日が綺麗よ。」
「アルテミスの方が綺麗さ。」
見詰め合う
照れあい
抱きしめる。
「…ラニアを恨まないでくれ。」
「…貴方が、望むなら。」
離したくない
ずっと一緒にいたい
生きたい
生きさせたい
「月の誓を破ってごめん」
首を静かに振った。
「どんな罰でも私は受けるわ。」
冷たい手で顔に触れる。
触れられた。
「俺が、嫌だ。…最後のお願い、聞いて欲しい」
「なーに?」
髪に触れた。
そのまま手を握りあった。
「結婚しよう。今。ここで。」
「…えぇ。私達2人だけの結婚式ね。」
この星の結婚というのは実に不思議な儀式を行う。
だが2人で選んだのは古代の方法だ。
「どんな時でもあなたを愛します」
「どんな時でもあなたを守ります」
口をつける。
互いの大切なものを交換する。
アルテミスから、いつも付けていた髪飾りを貰った。
奪からいつも耳につけていたガーネットのイヤリングを貰った
お互い付けあって。
抱きしめあった。
2人で、大声で泣き叫んだ。
愛しい君よ、黄昏と共に、去りぬ。
愛しい兄弟よ、月夜と共に、去りぬ。
愛しい友よ、嵐が攫い、去りぬ。
「アルファ、ひとつ聞いてもいい?」
「何?ガンマ。」
兄は、海に還れるの?
そう聞こうとしたけど辞めた。
「なんでアルファも兄さんって言ったの?」
兄は予想以上に困った顔をした
「…ベータはね、海鳥と同じ時に生まれたんだよ。」
父さんが隠していた全てを、アルファから聞かされた。
「4億年前。海鳥を開発した父はあることに気がついた。
船をどうやって国に戻すのか。
そこで古代の技術を使いベータをつくりあげた。」
どういうことか分かる?
そう聞かれると背筋が何故かゾッとした。
「ベータ、兄さんは…」
「…初代海鳥船長オーシャン=バード。」
今の船長の前の代までの歴代の船長は全て、ベータなんだよ。
「毎回データを消しては蘇らせる。父さんはずっと繰り返した。」
ということは…
「兄さんの、ベータの由来は?」
「…バードのBと、βを掛けた。」
昔から父さんのネーミングセンスは、
ダサい!
「しかもな、今回の旅を終えた時、本当はな、ベータ、女にするつもりだったんだよ。」
「…えーっと、女型にしようとしてたってこと?」
めっちゃアルファは笑った。
「女型だけじゃなく、彼女としてな。ベータは、僕らの母親にしようとしてたんだよ」
私も、大笑いした。
ちょっとだけ悔しかった
「結局、1番愛されていたのはベータなんだよ。ほんと、妬いちゃうな。」
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