これが、運命ならば。
兄の髪が見えにくくなる。
紫色の片目が僕を見ていた。
…兄は、僕のために、涙を流してくれた。
魔力で本当に、呪ったのに。
兄は、僕を愛してくれていたんだ。
もう水の中なのに、涙を流しているような気がした。
いや、血の涙は零れていた。
…アルテミスには、悪いことをしてしまった。
君は奪を愛していたのに、君に想いを伝えてしまった。
そんな君に僕は、呪いを与えた。
与えてしまった。
本当にごめん、アルテミス。
君は僕らのために、
涙を零してくれ。
水は温かかった。
コポコポと僕から出される息の音を聞いた。
これが母親の体内みたいなものなのかな?
親は、僕を愛してくれていたのかな?
きっと確かめに行っても、無視されちゃうな。
どうしようか。
今更、寂しくなってしまった。
黒蝶に会いたい。
淡水に会いたい。
船長に会いたい。
仲間に会いたい。
海鳥に乗って帰りたい。
ザハール王国じゃない、
サイール大国に、
みんなで帰るって言ったのに。
水底に着いた。
不思議と体は浮かばない。
ふと横を見れば船長がいた。
「すまない。」
ああ、幻覚と幻聴がする。
「この海の、愛し子。今一人、眠る。赤子眠る。」
誰かに抱き寄せられる感覚を覚えた
溺死は、苦しいと聞いた。
なのにこれは、
ただ、
安らかに、
眠らせ、
る、
母、
親。
「眠れ、眠れ、愛しの子。お前は貝の、王様よ。あと、5人、おいでおいで。愛し子」
船長室へ入った。
机の上に置かれた本。
そこに書かれていたのは、氷河期の少し前の伝説。
悲しい悲しい伝説だった。
2人の神様がいました。
ひとつは、無の神様。
ひとつは、有の神様。
無は、目に見えないものを作りあげました。
有は、目に見えるものをつくりあげました。
ある日、有は1人では作り終えることは出来ないことに気づきました。
有は自分の体を二つに分けました。
ひとつは水を司る男神。
ひとつは草を司る女神。
しかし、男神は、自分の力を暴走させてしまいました。
女神は男神の暴走を止めようとしましたが、死んでしまいました。
無は、ただ、ただ悲しみました。
目からは実体のない光が出てきました。
無から出された優しい光は女神の死体に垂れると女神は大木になったのです。
無は、今度こそ女神を守ろうと男神に立ち向かいました。
無は、男神を倒すことが出来ました。
そのせいで彼は沢山涙を流しました。
男神は無に対して水の暴走した力を与えたため無は、水を目から流しました。
地面は水底に変り、大木だけ、地上に戻りました。
大木は彼に語りかけました。
私はあなたに木の実を託す。
そしたらあなたは私を切って。
そう、悲しい決断をさせられました。
彼は今までの思い出と共に、大木を切り落としました。
すると世界は氷河に襲われました。
すると、あの時殺めたはずの男神が現れました。
男神は囁きました。
100人、生贄を捧げよ。
そうすればあの時の世界にしてやる。
しなければ皆沈める。
無は、自分の体を二つに分け、片方を海に捧げました。
すると氷河が晴れていきます。
水で湿った大木に緑が生えてゆきました。
大木は大地となり、大きく4つに別れました。
無は、生贄となるものを増やしたくなかったのです。
しかし持つのも少しの間だけ。
残り99人の生贄のために、自分が死となり、生となり、生贄に安らかな眠りを捧げました。
今でも海は生贄を待っています。
なので1人で、海に入ってはいけません。
船長は、これを見て、今までの隊員行方不明事件の真相に気がついた。
俺なら冗談だと思ってやらない。
船長は、死んだ。
今まで、行方不明となった船員は93名、
船長を入れて94名。100人まであと、6人。
この船に乗ってる人は10人。
また、人が死ぬのか。
「副船長、ブラっ、いや、黒蝶です。」
「…入れ。」
こいつも、死ぬのか?
「白蝶が死にました。」
「…白蝶、か。」
あと、5人。
俺は、死なないかもしれない。
「副船長。」
「なんだ?」
黒蝶のオッドアイを見た。
4色の目。
それは俺を睨みつけた。
「何故、笑っているのですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます