嵐はいつか過ぎ去る

まずは白蝶を探さなきゃ。

今いるのは図書の間だからとりあえず、外に出てみよう。




「ティス、あんたにこれやるよ」

「口悪いな。…何これ?」

ティスの手には白い石が握らされていた

「それは真珠。ここからはもう、守んない。健闘を祈る。じゃあね」

そう言って外に出た。

僕がやらなくちゃいけないことがある。

船長。

お願い。

見守ってて。






潮風が目を刺激する。

弟は両目を出していた。

あぁ。

あいつは、もう。

もう、ダメなのか。

目の刺激がひどいのか目から雫が出ていた。

最後にもう一度だけ笑い合いたかったな。

もし、薬を盛らなかったらな。

もし、ちゃんと話していたらな。

ザハール側の象徴である帽子を深くかぶった。

あいつはもう捨ててしまったようだ。

後ろで扉の開く音がする。

俺らが求めた姫君がいた。

姫は目を見開いた。

きっと聞こえたんだろう。

あいつと被った一言。

『ごめん、ありがとう。好きだった。』





この戦いに月の力はいらない

ただあの人への想いを伝えるために使う

この戦いに遠慮はいらない

ただ僕らは二度と笑い合うことも無い

大好きだったのに

大好きになったのに

サヨナラを言うには明るすぎる空

2人は刀を抜く

目と目を合わせる

これが

最初で最後である

兄弟喧嘩だ。

「今回は手加減しないよ、黒蝶!!」

「あぁ!割れるように散れ、白蝶!!」

2人は磁石のようにただ真っ直ぐ相手に向かって刀を抜いた。

姫君の悲鳴は、僕らには届かなかった。


刀に言葉が乗っていた。

白い刀には『僕を見て』

黒い刀には『愛して』

欲望は誰かを思うあまりに出てしまう。

この2人は、求め会いすぎた。

私はいてもたってもいられない、そんな雰囲気を出して奪のもとに向かった。

愛しい人よ、

あなたは、

どこ?








自分の刃が弟を撫でる度に心が痛くなる

自分の刃が兄に入る度に涙が出た。

どちらか死ななきゃ行けない。

愛した人を殺さなきゃ行けない。

前髪を切られた。

手の爪を削がれた。

お前の弱点は知っている

兄の弱点は知っている

急所は

目だ。

斬れ!

刺せ!

我らペルラの名の元に!

キン、キンと刀が触れ合う。

もし僕らが共通の敵に立ち向かうことになったら

最強だっただろう

それはもう叶わないけれど。

大好きだ。

大好きだったよ。

これからも。

次に会う時は、

きっと地獄だ。

愛しい兄弟。

もう、

もうか。


『Checkmate!』





倒れたのは

僕だ。

泣き崩れたのは

俺だ。

久しぶりにハグをした。

でも和解はこの世では恥ずかしいから、やりたくない。





「病弱に全力出すなよ、馬鹿黒蝶」

「お前こそ兄に素直に勝ちを譲れよ」

震える手で顔でも触ってやろうかと思ったけどそんなんじゃ収まんない。

朝日の色の目を取り出した。

黒蝶の口の中に流し込んだ。

「今まで散々毒を飲ませやがって!!お前に、呪いを添えてやる!!ははは!!一生苦しめ!!」

兄は泣いた

呪われたからではない

僕が死ぬからだ。

「海鳥の掟に従い、お前の身は美しく荒れた海に還す。」

「はは、あの家の墓に入るよりずっとマシさ。」

いつもなら抵抗しているお姫様抱っこも、今は何も感じなかった。

僕の真下は海だ。

「…大好きだったよ。いや、今でも大好き。」

「俺も、お前が大好きだった。今はもっと大好き。」

周りの音を感じなくなった。

2人で顔を合わせた。

あーあ。

結局笑ってお別れできないか。

片目、もうないのに涙が出てる。

黒蝶の目は呪われた。

僕と同じオッドアイ

僕は、

兄さんの目となって

これから守るから。

海の、生贄になって

海から見守るから 。

あなたに、

祝福を。

『Adios mi parte』

弟は海へゆらゆら。

兄は船でゆらゆら。

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