それでも、君は?

もし、この船の任務が俺達が望んで結果で終わった時、嫌でもアルテに正体がばれる。

サイールの方に都合が良かったとしても俺はザハールに強制的に帰される。

そしてアルテに正体がバレる。

あの子は怯えるかな。

それとも気にしないとか言ってくれるかな?

これについてはどこまでも見える目でさえも結末を見ることは出来ない。

きっとラニアならこんなこと考えたりしないんだろうな。

俺らがこの船に乗った理由を改めて思い出す。

『我ラノ血 汚サレタ アノ国ノ 姫君ニ呪ヲトイテモラオウゾ』







俺の家は古くから続く食人鬼の家系だった。

ラニアの家系はもちろん吸血鬼。

ラニアの家系が血を吸って、残ったからだを俺達が喰らう。

そのため、彼とは嫌でも仲良くなった。

ラニアの家系は吸血鬼になれることを誇りに思っていたのだけども俺の家系はそうじゃなかった。

食人鬼としての儀式、それからの生活、異常な程の精神不安定。

これらを起こして人の上に立つのを酷く嫌がった。

そして俺の代の時に一つの、たったひとつしかない解決策を見つけた。

それは王家の姫君にしか扱えない究極の魔法だった。

それと同時に海鳥の船員不足、ザハールへの姫君闇運搬。

こんなに好都合な年はなかった。

一族に1人の男だけがその究極の魔法にかかれば良いのだ。

そうすればもうこの一族は人として生きることが出来る。

だが船に乗るには今からじゃ若すぎる男子しかいなかった。

儀式を行っていない男子。

20歳以上の男子。

そんな子はいないと思われていた。

だけど、俺だけは違った。

儀式を不完全で終わらせた俺だけは。

その魔法にかけられることが出来る。

——食人鬼への儀式。

12歳の時に純度百の仲良くなった人間を殺すことだ。

それを俺は、アルファに行った。



「ぼ、僕ね!アルファっていうんだ!」

「アルファ…君?えっと僕はラーズ。奪=ラーズ=ブルルガンが本名だけど、できればラーズって呼んで欲しいな。」

そうだ。人と話すことが苦手だったから話しかけてもらえたのが嬉しかったんだ。

「ラーズ?僕の好きな花に似ている名前だね。」

「好きなお花?」

どんなものか聞こうと思う前に彼が腕を引っ張って

「こっちに来て!」

「ふえっ?待ってよ。」

あ、そうだあんまりにも可愛らしくて最初女の子かと思ったんだっけ

「ほらこの花だよ。ローズっていうの。君の髪と同じ色。赤くて綺麗でしょ?」

「うん。初めて見た。ローズ。ローズローズ!」

嬉しくて何度も言ったっけ。

「僕の国ではほかに薔薇とも言うんだ。奪も多分元を辿れば僕の国からの由来だと思う。」

「ムール国出身なの?」

「うん!君は?ザハール?サイール?」

「僕はザハールだよ。」

そんなたわいもない話で仲良くなった生まれて初めての友達。

本当は早めに殺さなくちゃいけない。

だけど、どうしても殺したくなかった。

初めての友達だから。

だから半年だけは、友達として。

ただの友達として2人ですごしたんだ。

でも、この家系からは逃げられない。

美しい月の夜に初めての、

初めての友達を殺したんだ。

だけど、刺し間違えて未遂に終えてしまった。

その時怖くなって逃げだした。

本当はそばに居たかった。

お話したかった。

もしかしたらまだ息があるかもしれない。

今ならやり直せると思って君のいる路地裏へかけて行った。

だけどそこには血痕一つもなくて寂しい風が吹くだけだった。

ほんの10分。

その間に彼は消えた。


それがかなりのショックだったらしい。

その日から自分が女だと錯覚してしまった







自分のやるべきこと。

一族のためにやらなきゃならないこと。

「…ねぇ、アルテ。今日はもう寝よう。」

「うん。奪、朝になったらいなくなってたとかやめてね」

頭をポンポンする。

「大丈夫だよ。まぁ、君が逃げるとかはなしだからね。」

「んーまぁ、奪になら襲われても別に嫌じゃないし」

「そんなこと言うと本当に襲っちゃうよ。」

ほっぺたをつんつんしてみた。

「でも、あなたの一族は私の魔法を信じてる。」

「魔法…?」

ニヤリと笑うアルテ

「一応私だって国の王女なのよ。ブルルガン一家のことだって知ってた。小さい頃はいつか攫われるんじゃないかーって怖かったけれどね」

アルテに唇を触られた。

「…あなた、になら私は攫われてもいい。犯されてもいい。殺されてもいい。だって私」

アルテの顔がびっくりするほど赤い。

「奪のこと、好きだもの。」

「は、へ、ぬ、へ?」

これは、likeの方の意味で…?

「ちゃんと恋愛感情の方の好きだから」

「で、でも。俺だよ…?」

アルテに手を握られる。

冷たく震えている手。

「あなたがいいの。」

「でも君にはアルファだっているんじゃ」

ふるふると首を振った。

「私にはもう王家だとか一族だとか血筋だとか関係ない。1人の女として、好きになった人と色んなことをしたい、子を授かりたい、同じ墓に入って地獄にでも極楽にでもついて行ってしまいたい。私はこれを望むことが出来る。」

「俺の、俺の一族の血は人を喰うんだぞ。それでもいいのか?」

抱きしめられた。

「ええ。私はこの月に誓えるわ。あなたのことを愛しているって。」

月に誓う。この世で一番強い約束の言葉。

破ったものには命はない。

「ならば俺も誓おう。俺もお前へを愛するって」

月に誓った。

彼女はもう。

「この、戦いが終わったら。結婚しよう。」

「ああ。月下の約束だ。」

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