逃走→……

とにかく逃げた。後ろから叫び声がした。

追いかけてくる音。あの力が効かなかった人。

とりあえず剣を構えて後ろを見た。

敵が笑顔で近づく。美海だけは守らないと。

相手は銃を持っている。

大丈夫、弱い。彼らは弱い…!

美海を後ろに彼に近づいた。

しかしいつまで経っても彼は銃を構えない。

ひたすら睨み合う。

そして彼はとても早いスピードで銃を向け撃ってきた。

横腹にあたった。

「外しちゃったー。まあ、次は当てるよ。」

「当てられるなら、当ててみなよ。」

横腹にある真面目データが破壊された。

弾を剣で切る。それで近づく。

手に電流を入れる。

……これぐらいなら気絶ぐらいするであろう。

彼に思いっきり接近した。

首は狙えた。

しかし自分の体に小刀が刺さっていた。

痛みはない。

ロボットだから。

なのに、体は動かない

ロボットだから。

下半身が機能しなくなった。

目の前の人も倒れた。


暗い廊下の奥の方から三人の人がかけてきた。

アルファ、ガンマ、…奪。

「ごめん、あと、まかせ、る、。」

守りたかった人の泣き声が聞こえた気がした。




「よいっしょっ、ふぅ。これで上半身でーきた!」

あれ、?ショートしたんじゃなかったのか?

「おーい、聞こえるか?」

懐かしい声がする。

「目は開けるか?」

目?

「おお!開いた開いた!聞こえてたんだな!」

キョロキョロ周りを見渡すとここは海鳥ではなかった。

「声は出るか?試しになんか言ってくれ」

「人造型月下人作成企画雄です」

こういうと父親は大きな声で笑った。

「一番最初の言葉がそれかー!まあ、今のところはそれが名前なのかー。」

父親が嬉しそうに頭を撫でた。紫色の長いくせっ毛が

顔を擦った。

「えっと、俺の名前はノアだ。お前の父さんだ。」

「ノア…父さん?」

「そうだよ!!それからこっちがアルファ、君のお兄ちゃんって所かな」

巨大なボトルに眠る可愛らしい少年。アルファ。

まだ胸の傷が残っていた。

「アルファお兄ちゃん。」

「そうだよ、お前は物覚えがいいな。」

嬉しそうにこちらを見て話しかけられた。

「お褒めいただき、ありがとうございます。」

「あはは、まだまだ話し方かてぇな。それに下半身も作ってやんないとな。」

未完成の頃からずっと優しく声をかけられ続けていた。

少しデータが飛んだ。



「おーい!ベータ、見てくれよこの子!」

「はい。ん?こちらの子は?」

金髪の子供がキョロキョロ周りを確認しながら隠れていた。

「俺が作ったんだ。お前の弟か妹になるぞ」

「何故、作ったんですか?」

ニヤッと笑う父さん。

「この前言ってただろう?一人ぼっちはさみしいですって。まあ、確かにお兄ちゃんはいるけど話せるのは俺だけだっただろう。これからお兄ちゃんの方も元気にしてやんないといけねえからもっと寂しかなると思うからさ」

それになっと金髪の子供を渡された

「たくさんの人と話して今も充分優しいけどもっと優しい人になってほしいんだよ。」

「優しい、人。」

金髪の子の目を見た。蒼氷色が綺麗。

「蒼氷。」

「……!お前、いい名前をつけたな!!」

これもひとつの成長だ!そう頭を撫でてもらった。


「ベータ、コーヒー持ってきてくれないか?」

「そう、言うと思いましたよ」

また父さんが頭を撫でてくれた。

嬉しいな。

「ベータ!お兄ちゃんが目を覚ました!」

「アルファお兄ちゃんが!?」

「アルファ…お兄ちゃん?」

蒼氷がテケテケ自分のあとについてきた。

「あれ、僕。死んでないの?」

「死んでないよ。辛かっただろう、お前も。これからは楽しい毎日が待ってるから、安心しろよ。」

アルファお兄ちゃんが頭をぽんぽんされていた


「蒼氷ちゃん?どこー?」

「蒼氷、ご飯!」

アルファお兄ちゃんが起きてから蒼氷はムスッとしていた。

「蒼氷ちゃん、見つけた!」

「うわぁー!アルファお兄ちゃんだぁぁぁ!」

叫びながら逃げるが父さんに捕まった。

「ふふふっ俺の手からは逃げられないぞー!!」

「お父さんっ!」

微笑ましい光景を見た

胸がポカポカする。

「あっ!ベータお兄ちゃん笑った!」

「えっ!マジで!?」

父さんと蒼氷がキラキラした目でこちらを見た。

「なんでもいいけとご飯食べたい。」

「…あっ!そうだったな。今日はシチューだぞー」

そういえばこんな時もあったっけ…。


「父さん、これ。ザハールとサイールから。こっちはムール。あとアクアリウムから、荷物。」

「うわぁー今日はマリン地方から色々きてんなー。しっかし今更アクアリウムからか…食べ物以外だといいなー」

早速荷物を開けてみると中にはキラキラした石が入っていた。

「…!これ、アクアマリンじゃねーか!しかもこんなに沢山!」

「綺麗、ですね。」

そう言うと父さんは自分の髪の毛を触ってきた。

「この石でお前の髪の毛の色、変えてやるよ。」

似合うと思うぞ。そう優しく言われた。

今の自分の髪の毛はこの色だったんだ。


父さんが、手紙を読んでから少しだけ様子が変わった。

「父さん、悩みでも、あるのですか?相談、乗りますよ。」

「……あはは、大丈夫だ。」

困ったような笑顔。抱きしめたくなる。

「…蒼氷は、どうなるんですか。」

「それは、だな。…男にしなくちゃいけねぇんだ。」

部屋のドアノブが少しだけ動いた気がした。

「それは、どうしてですか?」

「サイールが、俺が女の子を作ってることを何故か知っててな。海鳥に、女が必要だからって。」

こちらを少し潤った目でみた。

「大事な子供たちを戦に出すわけには行かない。だから、蒼氷は…」

「…そう、ですか。」

少しだけ寂しい気持ちになった。


「はっ!?話が違うじゃねーか!!!」

新しい手紙を握りしめていた父さんが叫んだ。

「父さん?」

それと同時に玄関のベルが鳴った。

「サイール軍だ。例のものを渡せ。」

「例のものってなんですかー?」

父さんが玄関で話をしている。

しかし家に入ってきたのは父さんじゃなかった。

「いやぁぁぁ!お父さんっ!!!!」

「蒼氷!!!!おいっ、離せ!!」

蒼氷が、男の人に攫われる

「あなた、だれ?蒼氷、離して!」

「…お前も後後使うことになるだろうし、手は加えないでやる。」

冷たい目をした人を始めてみた。

「なんで酷いことをするんだよ!」

「……!これはこれは上等なお坊ちゃん。君もついでに持っていこうかな」

アルファお兄ちゃんが…!

「おい、まだ誰かを渡すとも、作るとも言っていない!何勝手にさわってんだよ…!」

「まあまあ、あなたは一応我が国の者だ。反対する権利はないだろう?」

そういうことだ。と適当に言って男は、二人を連れて去っていってしまった。




2人だけになってしまった家。

三日後にまた、手紙が届いた

「…父さん、どうやら自分も行かないといけないみたいですね。」

「……。」

「アルファお兄ちゃんも、蒼氷…いや、ガンマも元気らしいです。」

「…」

「新しい名前も貰ったらしいですよ。アルファお兄ちゃんは皐月、ガンマはクラブという名を。」

「……そうか。」

俯いていた顔を上げこちらを見た。

目の周りが赤い。

大丈夫ですかという前に、父さんは、自分を抱き寄せた。

「ごめん、ごめんな。本当に、ごめんな…!」

「父さ…」

さらに強く抱きしめられた。

「幸せにしてあげたかっただけなのに、幸せになりたかっただけなのに…!」

「自分は、もう、充分幸せですから…!」

あれ?目の前がぐちゃぐちゃになってく。

「ベータ、お前…」

優しく顔に手を置かれた。

「泣いて、いるのか?」

泣く……?

「あ、れ?」

ぽたぽた目から水が流れていく。

「そうか、そうかお前、泣けるようになったんだな…。」

いつも通り頭をポンポン撫でられた。

「お前、明日誕生日だろ。名前をあげようと思ってたんだ」

ニコリとぐちゃぐちゃの顔で笑った父さん。

「龍。」

優しく呟いた

「君の名前は龍だ。龍はとっても強くて水の神様で、お前みたいに綺麗なんだ。」

「龍…」

なんとも言えない胸の温もりをどう伝えればいいのだろう

「龍、お前には素敵な力があるんだ。罪というのは消えぬものだ。その力はその罪を作る思考を消すためにある。君ならきっとうまく使いこなせるよ。応援してやるから、帰ってこいよ。龍…!」

「父……さん…。ごめん、ごめん。帰れないかもしれない…」

「俺はいつまでも待ってやる。俺が死んでも待ってやる。だから安心しろよ。」

初めてあった日のような笑顔でこちらを見た。

そう、だった。自分は、帰りを待ってくれる人がいるんだ




気がつくと海鳥の中だった。

ロボットにも、走馬燈というものがあるようだ。

動かない足、動かない手。それでも、帰んなきゃいけない。

己の力はもうひとつある。それを使おう。

罪を犯されたものを助ける力。

それを自分に使った。

アルファお兄ちゃん、蒼氷、美海。

今、助けに行くからね

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