10.学生の訓練事情…②


 森を走るハヤテ。この森はアウィーナ国へ突っ切るためには非常に近道となる。そのため一本道が通ってはいるのだが、訓練と言うのもあり、恐らくその周辺に置いてある可能性は少ないだろう。


 …そうなれば選択肢は二つ。一つは散っていった学生の探してないところ、人の少ないところを狙うこと。そして、この訓練で最も重要な二つ目…他の学生の取った小箱を奪うと言うこと。ニーアの「ここまで持ってくれば」と言う言葉。それは過程を一切無視して持ってくればOKとも受け取れる。


 ハヤテは考える……。どちらがリスクを回避して安全に取れるのかを。…そう考えれば後者であるが、それは愚策────。ある意味でニーアの言葉は選択肢を与え、より意識させる結果を生んだ。よって、ここは……


「出し抜いてこそ、この訓練に意味がある──!」


 考えは決まった。すぐに行動するために横道に入る。ただ真っ直ぐに、ありそうな所は見ながら走ると…そこはゴブリンと対峙した小道に出た。


「うっ…まだ血の匂いがキツイ」


 それもそのはず、一本道を逸れてまでこんな所に入る訳が無い。こん棒によって凹んだ木、ゴブリンの返り血を浴びた、盾となった土塊。それらは未だに整備されている様子は無さそうだ───。

 そんな光景に畏怖を覚えたその時、近くの茂みがざわつく。


「まさか───魔物!?」


 短剣を構えるハヤテ。細心の注意を払い茂みを凝視する。…しかし、現れたのはギルドメンバーの1人…先ほどニーアに愚痴をこぼした人物だった。


「ふー、やっと開けたところに…ってなんだここは?おい、お前が誰か殺ったのか?」


「いえ…この血はゴブリンのものです。…以前、ここで俺が襲われて…名も知らない少女がゴブリンを殺したんです」


「ふーん、そんなことが…って事はお前がハヤテか。見たことある面だと思ったが…まぁこれも縁か何かだな。とりあえず自己紹介だ、俺はヨロイよろしくな」


「ヨロイさんですか、よろしくお願いします」


 血生臭いこんな所で挨拶とは、変な縁もあるものだ。


「っと、ここじゃ話も出来ねぇな。ちょっと俺が通ってきたところまで移動するか」


 ヨロイの言葉に少し疑念を抱く。それに問題では無いとハヤテは断る。


「いや…俺は小箱を探さないといけないですし…」


 それを聞きヨロイはガシガシ頭を掻く。何か気に触ったのだろうか?


「あー…俺はまどろっこしいことは嫌いだから先に言っとくが…いくら探しても小箱は見つからねぇぞ」


「えっ…?」


 この訓練自体が根底から覆る言葉に、思わずハヤテは呆気に取られる。それもそうだ、小箱が無いなら…何故?────いや、言葉の疑念…言い回しを考えると一つの仮説が立つ。


「まさか…この訓練って……!」


 ハヤテは再び構える。それを見てヨロイも背中の槍を手に取る。


「ふーん、中々頭が切れる奴だな。とりあえず三人ほど気絶させたが、呆気に取られて取るに足らなかったが…お前はどうあがく?」


 ニーアの言葉から抜粋すると───「ここにいるみんなで…」つまりギルドメンバーも参加すると言うこと。そして、ヨロイのいくら探しても小箱は無い……それはギルドメンバーが小箱を持っているからだ。10個の小箱…ギルドメンバーの数…もう決定的だった。


「動きづらい森の中。俺を無力化出来たら小箱はやるぜ。…出来ればな!」


 胴体を突く槍の一閃。先に構えていたハヤテはギリギリながら弾くことに成功する。恐らく、この戦法で学生達を一気に倒したのだろう。


「へー…やるぅ。───反射神経と短剣の操作性に助けられたな」


 ヨロイの持つ槍もレプリカなのだが、いかんせん年期が違う。早さ、正確さの上で破ることは厳しい…ならば考えねば、戦いの中で出来うる限りの全てを使ってこの人に勝たなければ……合格できない!


「どこまで防ぎきれるかねぇ?…さぁいくぜぇ!!」



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