09.学生の訓練事情…①


 正直ここにはまだ来たくは無かった。今でこそ、昼間で尚且つゴブリンがいないとはいえ、あの血生臭い匂いや身体を巡る痛覚の嵐を思い出さざるを得ないのだ───。


「はい注目!ここから先は一人で行動して貰いたいのだけど、流石に装備も無ければ弱い魔物でも対処できないわ。…そこで、冒険者ギルドのメンバーを使って道具を用意しました!」


 生徒の後を追うようにギルドメンバーが十人程、ぞろぞろと沢山の武器を背負ってやってきた。


「うへぇ…レプリカだけど重てぇよこれ。おい、ニーア!学園で生徒に配れば良かっただろうが!」


「ごめんねみんな~。いやぁこっちの方が緊張感出ると思って!」


「まぁ、給料はギルドから出るしいいんだがな」


 ギルドのメンバーが渋々ながら、土に荷を下ろす。用意された武器は致命傷の無い訓練用のレプリカ───。剣、短剣、大剣、槍、手甲などそれぞれ8個ずつ。単純に一人一つの武器が渡る。…すると一学生からニーアに質問を投げかける。


「…質問です。何でレプリカを使うのでしょうか?あと、弓とかボウガンとかは無いんですか?」


「もう少し人数が少なければ用意も出来たのだけれど……まぁ、それは説明を聞けば分かると思います!…今からここにいるみんなで森の中に入り、簡単な宝探しをしてもらいます!」


 弓等の遠距離武器を使わない理由は単純に人数の多さによるものだ。あくまで訓練…しかも初日だ、誤射して死んでしまってはギルドから選ばれた講師として学園に申し訳が立たない。

 また、訓練用の物を扱うというのが少しばかり引っかかる……。


「私の持っているこの小箱と同じ物を森のどこかに10個置いてきました!仮に多く見つけても一人一個は守るように!ただし…見つけ、ここまで持ってきた者から合格にします!持ってこれなかった人は…残念ながら不合格です!制限時間は…全部回収してくるか、日が暮れるまでには終わらせるつもりだから心配しないで!それじゃあ、武器を選んでね~」


 いや、違う。誤射とかそういうのじゃないのだ。

 ニーアの言葉で少なからずここにいる学生は殆ど理解しただろう。訓練用を使う理由や、遠距離武器ではなく、全て接近戦用の武器だというのを───!


 学生は武器を慎重に選ぶ。どれがしっくり来るのか…、状況に応じて使いやすいのは…?ハヤテも武器を手に取る。剣か…槍か…手甲か…?しかし、ハヤテは迷うことなく短剣を選択した。少しだけだが、中に入った…その経験が短剣を選んだ意味だろう。全員の準備が整ったようだ───。


「じゃあ…ただ今から、冒険者ギルド講習…サバイバルinフォレストを開始します!」


 大きな笛の音と共に学生は全速力で森に入っていく。合格、不合格…そんな言葉を聞けば誰だって必死になる。全員が森に入ったタイミングで、ギルドメンバー達も準備を始める。


「じゃあ…俺たちもそろそろ行くか」


「みんなの事、よろしくね!」


「おうよ、きっちり給料分は働くさ」


 そしてギルドメンバー達も装備を整え森に入っていく。


「さて…と、生き残れるのは何人かな?もしかしたら全滅しちゃうかもね…ふふふっ」


 ニーアはただ1人、森の外でほくそ笑むのだった────。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る