11.学生の訓練事情…③


 森の外では気絶した者や負傷者がうめき声を上げて倒れていて、魔術ギルドのシルバー達5名程が手当を行っている。そこにはレナの姿もあった。


「流石に大人げなかったかな…?まぁ、一人くらいは持って帰って来て欲しいんだけど…。それにしてもこの小箱は本当に凄いね~」


 ニーア達の持っている小箱は普段青い色をしているのだが、学生の持つ武器に近づくと赤く発光する。これにより簡易的な学生の索敵が行うことが可能だ。

 …商人ギルドの商品なのだが、どういう仕組みなのかは企業秘密と言って教えてくれないのは別の話。


「さーて、どれくらい持ってこれるかな!…っと、また一人追加~!」


「またですかぁ~?」


「うん、よろしくね!まだ10人だから…最高でも30人だよ、頑張って!」


 それを聞いて少し落胆の表情を浮かべるシルバー達。自分達の魔力が尽きてしまわないかの心配が出てきた。


「は、はい…。────それにしてもハヤテ、大丈夫かな…?」


 森を見つめるレナ。ここにハヤテが運び込まれていない…つまりまだ森の中にいると言うこと。ただ、無事に帰ってくることを祈るしか出来なかった───。



 一方所変わってハヤテ達。手加減もあるだろう、余裕を持って刺突してくる。あの手この手で躱して来たが、やはり何発かダメージを喰らう。


(非常にまずい…。このまま一本道に出たい所だけど、そこだと槍の性能…射程距離の長さが活かされてしまう。なら、どうするべきなのか…?)


軽く辺りを見渡す。気を引きつけられるモノ、隠れ蓑になりそうな所を…そして、一点に目がとまる。


(そうか…あの土塊、記憶が正しいならゴブリンのこん棒も受け止めていたはず…。魔法の加護が無くてもレプリカの一撃くらいなら…!泥臭くても良い、勝つしかないんだ───!!)


 肩で息をするハヤテ。対照的にヨロイに多少の疲れはあるだろうが、それでもまだまだ動ける。


「降参するなら、そのまま森の外まで送ってやるぜ。魔術ギルド志願のシルバー達が手当をしてくれる手筈になってるからな。───さぁ、どうするよハヤテ」


「はぁ…はぁ…諦める訳無いでしょう?唯一の合格条件が目の前にあるんですから───!」


「よく吠えた…いい目してるぜハヤテぇ!───なら、楽にしてやるよ!!」


 迫る槍に躊躇無く横に飛ぶハヤテ。それを追従するようにヨロイも軌道を変える。


「読めてんだよ…そこだぁ!!!」


 読まれていようが、攻撃が止まらないだろうが、そんなことは関係が無い。ただ、戦闘不能にならなければ勝機はまだある───!


 ヨロイの槍はハヤテを狙って真っ直ぐに追う。直ぐさま正面に体勢を変え土塊の陰に逃げるハヤテ。しかし、ヨロイはその土塊ごとハヤテを突き刺す。


「───……かはっ……!!!」


 威力は土塊のお陰でそこまで無いが、突かれた部位が悪い。ハヤテはヨロイの一閃を胸に受けてしまい、息を吐き出す。


「勝負あった────なっ!?」


 …だが、胸を突かれても所詮はレプリカ、模造品だ。刃は無く、人を貫通させるまでには至らない。ハヤテはそれを好機と捉え、一気に槍ごとヨロイを引っ張り上げ体勢を崩しにかかる。


 慢心───それがこの作戦の核だ。もし仮に土塊が破壊されなかったら、陰から襲うことも出来ただろう。しかし、それはさほど問題では無い。ハヤテが気絶させられなかった事実が重要なのだから。


 ハヤテは胸を突かれはしたものの、勢いが足りず身体を吹っ飛ばすには及ばなかった。ヨロイは前のめりに…そして、その勢いを利用して顔面を殴りつける。


「────!!!」


 体勢を崩され足場がふらつく。加えて、前に行く体重分の重みがそのまま攻撃力となる。少々手荒ながらも、ヨロイを背中から地面に落とす。


 だが───それで終わらす訳にはいかない。相手の無力化が目的だ。もし、立ち上がられたらこの戦法は使えない、相手も逆上するに違いない。


「まだだ!!」


 立ち上がろうとするヨロイにそのまま乗し掛かり、マウントプレーに持っていく。…ハヤテの体格は正直良い方では無い。しかし、みぞおちから胸にかけてを乗られると人間はどうなるか…。そう、起き上がることが困難だ。ハヤテは手甲でもつけていたら良かったと思いながら、手元に落ちていた短剣を握りヨロイに突き立てる。


「う…参った、降参だ!!」


 両手を挙げ降伏を懇願するヨロイ。それでもまだハヤテは退こうとはしない。


「…退いたら襲わないですか?」


「ゲホっ…そんな卑怯な事するかよ…」


 雌雄は決す。地の利を使い、ハヤテは泥臭く辛勝する。…平均的な適性値でも、やれば出来るものだと感心した。


「ぺっ!あー…痛え、鼻折れてねぇかな。まぁいいや、終わったら治癒してもらうか。……と、忘れないうちに、ほらよ!」


 ヨロイから小箱を受け取る。こうして手にするとようやく実感が湧いてくる。────勝ったんだ、と。


「俺は後から行くからよ。…精々襲われないように気をつけな。赤くなったら近くに誰かいるって分かるんだが、学生の武器に反応するしな……」


「うーん、ならその槍と交換して下さい。それなら反応しない…ですよね?」 


「お、頭いいなお前。…マグレかどうかは放っておいて、会ったときの頭のキレと戦闘時の勘の良さ…俺は評価するぜ!まだまだ甘いとは思うが、とにかく強くなれ。上手くいけばニーアと同じぐらい稼ぎ頭になるんじゃねぇか?」


「え…ニーアさんそんなに凄いんですか?」


「討伐専門の中では群を抜いて強えよあいつ。今日来たギルドメンバー10人同時でも差し違えられるかだしな…」


 非常におっかないことを聞いてしまった。そんな事実を知らされたらニーアの前では粗相は出来ない…もししたらと考えると身の毛がよだつ。


「さっさと行ってこい。多分、こっちの先だったか」


「ありがとうございます。では、俺は戻ります……!」


 指示された方に走るハヤテ。ヨロイとの戦いで胸をはじめ、色々な所を突かれた。それでも目的地に向かう。

 10分も経たぬうちに森の入り口が見えてきたが、ここからが正念場だ。少しずつ赤く光る小箱。つまり、狙う学生がいる…。警戒しながら走る。まだ来ない…、まだ来ない…、まだ来ない…。遂には誰も現れる事無くニーアや学生達の所に出てくる。


「えっ…あれ?」


 拍子抜け…あれだけ警戒していたのが馬鹿みたいに思えるくらいだったから。しかし、それはニーアの言葉で理解した。


「あー!君が最後だったんだよ~…おっ、小箱持ってるね、合格おめでとー!」


 ニーア、ヨロイを抜いたギルドメンバー、負傷者や治癒している者を含むシルバー達。それを見て分かった、成し遂げた。


「ははっ…やった…合格だ…」


 やはり胸に受けたまま、緊張したままで走ってきてこの安堵。緩まない訳がない、緊張の糸はり視界が暗くなり、倒れ込む。この丘の風はやはり気持ちが良いものだ───。


















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