06.王国の金策事情


 あれから三日、無事退院し自宅に向かい登校の準備をする。すでに遅刻確定のようだが。

 母さんは「少しずつでも返していこう、ハヤテが生きてるだけで…うわぁぁぁん!」と泣き叫んでいたが、今はギルドの仕事に向かったようだ。ハヤテは白紙のジョブシートを手に取り家を出る。

 学園に向かう最中、ハヤテの噂を聞いたのか露店の行商人が声をかけてきた。


「話は聞いてるぜ、災難だったな。今はどうだ、腕は動くか?」


「ええ、少しぎこちないですが腕もしっかり動きますよ。…母さんが何か言い広めたんですか?」


「そりゃあんだけ泣いてたらなぁ…なだめようにも誰も近寄れないしさ。…お、そうだった、冒険者ギルドからゴブリンの報酬があるみたいだぜ」


 何のことだろうか。確かにゴブリンの絶命は目にした…はずだが、町までは身体の一部すら持ってきてない。


「覚えてないのか?まぁ、息絶え絶えだったみたいだから仕方ねぇか。丘はゴブリンを擦ったから血だらけでよ、次はあんなことしなくても、耳なり一部だけ持って来るんだな」


 少しだけゾッとした。でも、報酬が貰えるならと楽観視出来る。一体誰が運んだのだろうか?あの少女だとしたら、どれだけ力があるのかと勘ぐってしまう。


「おっと、学園に向かってたんだったな。呼び止めてすまなかった、もうミランダさんを悲しませるんじゃねぇぞ!」


「はい、じゃあ行ってきます」


 学園に着いてからのハヤテはと言うと、心配の声や賞賛の声などを受けるのだった。レナはよっぽど心配してくれたのか少し涙ぐんだり、シルバには左腕を叩かれて労われたり…つうか痛いそれ。

 課業が終わり、先生に呼び出される。


「失礼します。ハワード先生いますか?」


「おぉ、こっちだすまんがこっちまで来てくれ」


 資料の山からひょいと顔を出すハワード。ボサッとした髪にメガネの先生は学園でも一人だろう。


「息災で何よりだなハヤテくん。あんなことがあって言うのもなんだが、ジョブシートは書けたか?」


「…いえ、まだ書けてないです」


「本当は今日までなんだが…、明日まで時間を延ばすからしっかり書いてくれ。一つアドバイスだが、他のやつの中にも将来を見据え、考えて書いてる奴の方が少ない。適性から選ぶもよし、漠然にやりたいことで決めて書いてもいいからな」


 適性…ハヤテは商才があるわけでも、魔術において希代の天才というわけでもない。ましてや剣術はゴブリン相手にしてもまともに立ち回ることは難しい。

 漠然にやりたいことと言われても、今は1000万Gの借金があり、ミランダには迷惑をかけれない。


「話はそれだけだ、また明日な」


「はい、ありがとうございます。では、失礼します」


 でも、ひとまず安心だろう。悩みの種の金策は非常に重くのしかかっているが。はぁ…と一つため息をつき、ハヤテは学園から出る。


「そう言えば…ゴブリンの報酬があったはずだったな…そこまで期待はしてないけれど行かないとな」


 そのまま家路に着くつもりだったが、行商人から報酬があると言われたのを思い出す。


 冒険者ギルドは王宮を中心にして東側にある。他にも東側にはハヤテの自宅や学園、いつも行く丘への道がある。

 他の施設については北側に戦士ギルド、西側には魔術ギルドや病院そして研究施設、南側には商人ギルドやバザールがある。また、東西南北にそれぞれ堅牢な門が設置され常駐の戦士ギルドのメンバーが入れ替わりで守っている。

 気付けばハヤテは冒険者ギルドに着いていた。他ギルドよりかは新しめの建物だ。隣にはミランダがいつも世話をしている馬の小屋がある。

 扉を開き中に入る。昼間から酒をかっ喰らう者もいれば、依頼掲示板を除く者がいる。冒険者ギルドは色々な職種があるため窓口は多岐にわたる。主なものでは鍛治、依頼、卸売、飲食だ。今回はゴブリンの報酬とのことなので依頼関係の窓口だ。


「すいません、ゴブリンを討伐…したハヤテと言います」


「あぁ初めましてハヤテさん。私は依頼窓口担当のソニアと言います。…今回は討伐依頼の出ていたゴブリンの討伐、本当にお疲れ様でした。本来ならギルドメンバーしか依頼は受けれないのですが、討伐関係は倒した者が受け取れますので……と、早速報酬ですね」


 少し裏に入りゴソゴソと金庫を漁る受付嬢のソニア。やがてゴブリン討伐報酬と書かれた袋と共に戻ってきた。


「はい、今回の報酬の10万Gですね」


「えっ!?ちょ、ちょっと多すぎませんか!」


 正直に驚く。いつもの薬草採取は量にもよるが、3000Gにも満たない。ミランダの馬の世話、雑務をこなして一日1万Gにも届かないものだが…。


「いえ、討伐報酬はこれでも少ない方なんですよ?最近現れたハイウルフは30万G、オークは100万Gを越えることもありますから。あと…最重要指名手配でしたら2000万Gも越えることもしばしば」


「30万?100万?2000万!?え、えぇぇ!」


 何人か振り向いてハヤテは少し顔が赤くなる。それでも驚きは収まりそうにない。


「まぁ、命の危険もありますので致し方ないかと。…またご利用下さいね!」


 ぺこりとお辞儀をして見送るソニア。ハヤテは足下が少しおぼつかない。やはり興奮が冷めないようだ。

 報酬を受け取り寄り道せずに自宅に帰る。帰るとミランダがスープを作っていた。


「お帰りなさいハヤテ。身体は大丈夫だった?」


「うん、まだ完全じゃ無いけれど明日からまた手伝いもするよ」


「あんまり無理しないでね…母さん本当に心配したんだから……あら?その袋は…」


「いや…何でも無いよ、ちょっと着替えてくるよ!」


「はーいいってらっしゃい」


 咄嗟に隠してしまった。でも、ここで渡すのは得策ではないのだろう。しっかりギルドに入って働いて…病院代を返して。自立したらお金を返す…それが恩返しだ、親孝行だ。


「そうだな…お金に目がくらんだって言ったら嘘になるけど…」


 一時は生死を彷徨った。そして多額の借金。赤目の少女は気になるけれど、それでもまずは動くことから始めよう。

 ハヤテはジョブシートに手を伸ばし書き連ねる。

『希望職種──冒険者ギルド』と────。




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