05.王国の解呪事情


「なるほど…話を精査するに、その赤目の少女が怪しいのではないか…と」


「はい…。朧気にしか覚えてないですが、俺と同じくらいの歳で精霊召喚レベルの魔法を使っていたと思います。だから…彼女こそが俺に呪いを…」


「そうとは言い切れないかもしれないが…、可能性は大いにあるだろうね。精霊召喚を出来る程の件の少女は、西のマルク皇国から来たのかもしれない」


マルク皇国…。魔術師の総本山とも言われ、魔術の学問に特化している学園があるという。また、魔術兵器の存在等は否定しきれないだろう。


「ただ───君を助けるためには…君かけられた魔法…いや、呪いを解呪しなければ治癒は出来なかったのだよ」


 医師が言うには、どうやら体細胞を維持する魔法…そう言われると聞こえは良い。しかし、治癒の代表例として細胞分裂を誘発して身体の治癒力を上げたり、魔法で補強することで怪我を治したりする。

 この魔法…ある意味で呪い、それを解かなければ治癒が困難と言うわけだ。大規模になったのはそれほどに解呪が難しいものだと推察される。


「私も何年も魔術に携わってきたが、不老不死の様な魔法は見たことは無かった。だからこそ解呪という方法をとったのだ」


 チラリと書面を見て医師も厳しい顔を浮かべる。


「しかし、この金額をパッと払うことは難しいだろうね…。まぁ、君も若いし、来年はギルドに雇用されるだろう。少しずつ返してくれたら構わないよ。じゃあ私は別の診察があるからこれで…」


 職務に帰ろうとする医師は思い出したかの様にハヤテに問いかける。


「…あぁ、一つ勘違いして貰っては困るのだが、仮にその少女の魔法…いや、ある意味でこの呪いは君を助けたことは覚えておいて欲しいのだ……ごほん、では何か不都合があったら診てあげよう。ハヤテくん、今は病室に戻りなさい」


 運んだのは誰なのか分からない、しかし…魔法の意図は容易に理解できた。死ねば何も無いのだから。


「分かりました…」


 虚空に消える呟き。赤目の少女とは、何故あそこにいたのか…色々なことがごちゃ混ぜになってハヤテの頭をかき乱す。それでも今は休むほかない。───退院後、これからどうすれば良いのかと思案するだけだった。

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