04.王国の医療事情
あれからどうなったのか…正直全く記憶が無い。気付けば魔術ギルド経営の病院に連れてこられ、こうして治療を受けている。あの少女が運んだのか、町の入り口に倒れていたそうだ。左腕は粉砕骨折、打撃の影響で肋骨や内臓に至るまでが損傷。医師曰く、生きていることが奇跡的だとのこと。治療の甲斐あって、二日で目を覚まし、骨や内臓はあらかた補強が完了したようだ。
軽度な怪我や、お金の工面が厳しい家庭は簡易的な治療の出来る商人ギルド経営の病院に。生死に関わる重度の症状の場合は魔術を用いた治癒という形をとる。
「ハヤテぇ…ハヤテぇ…!」
「そ、そんな泣かなくても…俺は生きてるって…」
「母さん心配したのよ…見つかるのが遅かったら…うわぁぁぁん!!」
ミランダの声が病室にこだまする。いたたまれなくなり、照れながら俯いてしまう。
しばらくしても収まらない母は女性医師に連れ出されたようで、頃合いを見て担当の医師がやってくる。
「えー…君は無事峠を越え、明日から退院出来ます」
「よかった…、明日から学園に通えるんですね?」
「そうですね…。左腕から内臓にかけての損傷が激しく、こうして話せるのが奇跡的な状態です。…話はそれますが、君は魔術の心得はありますか?」
「いえ…学園でも中の下くらいと言うか…ほとんど実践には使えないです」
「そうですか…では、あれは一体…。あぁ、話を折ってすまないね。今日まで安静にして明日の登校まではゆっくり休みたまえ」
含みのある言葉もあったが、無事退院出来るようで一安心だ。
「で、治療費だが…この書面に書いてあるから後で目を通してくれ」
そう言うと医師は席を外し、病室に静寂が訪れた。手持ち無沙汰もあり、書面に手を伸ばす。左腕は動く、痛みもほとんど無い。魔術の治癒はやはり凄いと感心しながら、書面に目を走らす。
「………はっ?」
いやいや、これは何かの間違いだろう。そうか、まだ夢から覚めていないのか。じゃああの少女と会ったのは?ゴブリンに強襲されたのは───?…否定できない。あの焼かれるような痛み、現に多少ジンジンと疼く痛みは感じている…。
「い、1000万G(ゴルド)…!う、内訳は…」
あり得ない、いくら何でも高額過ぎる。薬学、魔術の進歩で医療は安価なものとなってきた。末期癌ですら100万Gを越えることは稀なだけに、この金額は度を超している。
今なら歩ける、医師に追いついて話を聞かなければ…。走りだすように内訳に目を通す。…一つ、無視できない項目が入ってくる。
『大規模解呪魔術式…980万G』
前述の通り、魔術のおかげ、薬学の向上で安価に医療が受けれるようになった。しかしながら、それでも全てがそうあるわけではない。
汚染や呪い…魔術等の外的要素によるもので、医療では治療できないものもあるのだ。
「いや…でも、えっ!?」
1000万G。通常、入院や魔術の公使で治療した場合、約20万Gもかかれば高い方だ。生死もかかっていたという点を鑑みても妥当である。ギルドの報酬、安くても5000Gから受けれるものもあり平均年収で見れば高い方だろう。
しかし、毎日受けれる訳ではない。依頼が無ければ成り立たない、悩みが無ければ成り立たないのだから。それもあってかハヤテ家の経済状況は控えめに見ても良くはないのだ…。
ハヤテは医師に尋ねるべく病室を出る。しっかり歩けるようで、それは感謝するべきなのだろう。
「す、すいません!これで聞きたいことが!」
先ほどの医師に訪ねる。何故───大規模な解呪魔術が行使されたのかを。医師は難しい顔をしてハヤテに告げる。
「…こうしなければ君を救うことは出来なかったのだ。…あの日城下町に血まみれの君が倒れていた。しかし、外傷は酷いものの出血はあまり見られなかった。あの日何があったのか覚えている範囲で教えてくれないか…?」
「はい…」
その日のことから、ゴブリンとの対峙。自分の中にあった記憶を順にたどっていった───。
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