02.王国の家庭事情


「ただいま…って、母さんもまだ帰ってないのか」


 レナ達と別れ家に帰る。ハヤテの家はお世辞にも良いとは言えない。そこに母親のミランダと二人で住んでいる。質素で、贅沢の出来ない生活ながらも、互いに仕事をこなし幸せに暮らしていた。

 母は冒険者ギルドに薬草を届けたり、ギルド所有の馬の世話や雑務を受け賃金を稼いでいる。ハヤテもそんな母の手伝いをと、数年前から薬草採取や比較的弱い魔物の素材を集めていた。


「…俺はレナみたいに魔術適性はないし、シルバの戦士適性には遠く及ばない。オールマイティって言ったら聞こえは良いけど、それって中途半端ってことだもんな…。やっぱりレナの言うとおり、商人ギルドにでも入って、修業して……。母さんの仕事を手伝うのがいいのかもな。……日は高いけど、今日もいつもの所に採取に行くか」


 少しシワの入ったジョブシートを眺め、カチャカチャ装備を整える。簡素な鎌、つぎはぎの質素な籠を背負い家を出る。

 目的地は城下町の外だが、町からも近く見晴らしの良い丘。日が差し、適度に風が吹く。夜でなければ行商人や旅人もよく通る道だ。今も日が出てるため人がまばらにいる。


「ここはいつ来ても風が気持ちいいな…。…よし!日が暮れる前に薬草集めるか」


 本腰を入れ薬草を採るハヤテ。しばらくすると近くを歩いてきた行商人が声をかけてくる。


「おう、ミランダさんの所の息子じゃねぇか。こんな時間から薬草採取の手伝いか?」


「はい、まだ母さんも帰って来てないので早めからやろうかと」


「いつもご苦労なこった。…そうだ、最近は丘の奥の森でゴブリンが出るらしいから近づくんじゃねぇぞ。日が高いうちは出てこないが日が暮れる前には帰るんだぞ」


「忠告ありがとうございます。また薬草を卸しておきますので」


 手を振り、重そうな荷物を背負い行商人は去って行く。

 それからハヤテは丘を越える人達を見ながらコツコツと集めていく。そうこうしているうちに日も暮れ始める。


「よい…しょ。これくらい集めたら十分だな───」


 目の端に人影を捉える。自分と同じくらいの歳だろうか。少女が一人森に入っていくのが見えた。


「レナ…じゃないな、あれは一体だれだ…?───って、ゴブリン!夜も近いのに危ない!」


 籠を揺らし走る。日は暮れ始め、夜の帳は落ちてくる。ハヤテは少女を呼び止めるため森に入るのだった





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