王国ジョブシチュエーション!

きのこいし

プロローグ

01.王国の学生事情


 今でこそ珍しくない光景───。人類の繁栄と営みがそこにはあり、人々は戦い生きている。

 がんじがらめの規律に縛られること無く、ある者はギルドを通じ賃金を稼ぐ。ある者は商いで家計を支える。ある者は王宮に仕える誉れ高き兵士となる。

 

…かの王が制定した法はただの三つ。


 汝、この国では自由であれ───

 汝、この国では対等であれ───

 汝、この国に忠義を尽くせ───

 アルガス・トーラム国王


 三つの法はひとえに人々の枷を解き、繁栄への道を作るのであった───。

『トーラム王国建国元年制定 三大国法記述文献より抜粋』




「───で、どうして空気イスで授業を受けないと駄目なんですか…!」


 ぷるぷると足を震わし立つ男子生徒。周りはいつもの事だと呆れかえっているように見てとれる。


「そりゃお前、寝てただろうが。鼻提灯出して寝てる奴なんて、教師やっててお前が初めてだよ」


 ボサッとした頭を掻く。メガネに白衣といかにもインテリそうな教師が言う。


「だって…ここ先週と同じ内容じゃ…くっ…!」


「はぁ…ここは特に大事なんだ。……時間も割いてられん、もう座って良いぞ」


「ぷはぁ…助かった…」


 周りからはクスクスと笑い声が漏れている。男子生徒はそのまま続ける。そのクラスの空気をよそに教師は書き出す。歴史を…何が起こったのかを。一つ一つ紐解いていく───。



 建国から数百年経ち、この国は…世界は大きく変わった。ギルドは形を変え職業の斡旋所へ、商いも薬学や産業の発達と共に進歩しギルドを立ち上げたり。さらには魔術の進展により魔術ギルドとして参入した───。

 それでも根本は変わらない。一度城下町を外に出れば魔物はいるし、近隣国とのいざこざもある。変わるものの一方で変わらないもの、そうして世界は保ってきた。



「───というわけでこの学園だったり、ギルドがあったりがするわけです。…分かりましたか、ハヤテ君?」


「…はーい」


「よろしい。では、本日はここまで。…ジョブシートをまだ出してない人は来週初めに出すように。来月には職業ごとの専門授業があるから『必ず』出すようにな」


 教師は念を推し、ゆっくりと教室を後にする。これで今日の課業は終わったのか生徒達は帰り支度に入る。

 しばらくして、先ほど周囲の目に晒された男子生徒に二人生徒が近づいてくる。


「さっきは災難だったね~ハヤテ」


「仕方ねぇよ、あんな幸せそうな顔で寝てたら誰も声かけられねぇわ」


「昨日は薬草採取の手伝いが長引いて…ふぁ…ねむい…」


 欠伸をするハヤテに女子生徒がシートをちらつかす。


「で、ハヤテは決まったの?」


「ん…いや、まだ決まってない。って、そう言うレナはどうなんだよ?」


「ふふん、私は魔術ギルドにしたわよ。商人か迷ったんだけど、魔法適性あるってことで。シルバは戦士ギルドだってさ~」


「俺はそれしか適性はないんだよ。俺は戦士適性以外はからっきしだからな」


 自信満々に答えるレナと正反対に謙虚に答えるシルバ。まだ進路ジョブが決まっていないハヤテは難しそうな顔になる。

 ふと窓の外をちらりと見る。魔術書を片手に会話する生徒、支給された模擬刀で稽古する生徒、取引所と睨めっこする生徒等。

 それぞれ決めた職業の予習をしているようだった。それを見て焦りに顔が陰る。


「俺は…そう簡単に決められないよ」


 一般的に学園とはギルドに入るまでの訓練所と言ったところだ。勉学や、より良いギルドに行きたくて長くいる者もいれば、すぐにギルドに雇用される者もいる。

 だが、単純にギルドと言ってもいくつかの種類がある。

 三大ギルドと銘打たれている戦士ギルド・魔術ギルド・商人ギルド。それらは市民や王宮から依頼を斡旋してもらい、こなしていくことで生計を立てている。

 それらより小さいギルドを集合した冒険者ギルドがある。基本は三大ギルドと同じ要領で仕事を請け負うが、魔物を狩り商人ギルドに売ったり、鍛治屋として戦士ギルドに貢献、魔術ギルドの研究の手伝いなど多岐にわたる。…いわゆる便利屋稼業としての面が強い。

 また、裏の仕事に重きを置く、ならず者の集まるギルドもある。存在は確認されているがギルドの本拠地などは未だ謎が多い。

 そして…若人の誉れ、王国騎士団。精鋭揃いの王国騎士は数百年続く王国の平和を守ってきた。そんな王国騎士を憧れている生徒も少なくは無い。


「ハヤテは王国騎士なんて似合うんじゃねぇのか」


 ケラケラと笑いながら話すシルバ。戦士適性は高いからむしろお前だろ…と喉まで言葉が上がってきたが必死に抑える。


「…俺には無理だ」


「まぁ、ハヤテは王国騎士って柄じゃないもんね。商人でもなってみたらどう?」


「…うーん、考えとくよ。───さて、帰るか」


 その後は談笑しながら学園を後にする。明日は学園も休み。ハヤテは進路の事に悩み、明日どうするか考え家路に着いたのだった。


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