勇者一行

第18話 休憩

「む、待てお前。それは私の干し肉だ返せ」

　ロロがグレインの持っている干し肉を奪おうとする。

「お前パン一個多く食っただろーが。その分肉は俺のもんだ」

　グレインは取られないように干し肉を持つ手を高くあげた。

「余ってた分を食べただけだ。肉は全員同じ量しかないだろ」

「図体小せーくせに食べ量だけはいっちょまえだな」

「なんだとこいつ」

　二人はもはや干し肉を取るのも忘れてもみ合う。俺はパンを頬張りながら、これを食べ終えたら止めよう、と考え二人の喧嘩を見守る。

「まったく、仕方ありませんわね」

　するとシャルロッテが耐えかねたのか食べていたパンを傍に置く。そして何やら気合を込めるとその体が見る間に大きくなり、あっという間に人間代のサイズに変わった。

「むんっ」

　そして二人に間に割って入ると、両手で二人の頭を鷲掴みにした。

「いだだだだだだ！」

「あ、頭が潰れる！」

　小柄な体躯からは想像もできないほどのパワーで掴まれ、二人は悶えながら必死に逃れようとする。

「喧嘩はしても構いませんが食事中は静かになさい！干し肉なら半分こすればよろしでしょう」

「わ、わかった！わかったから離してくれ！」

「脳みそが出る……」

「分かればよろしい」

　二人の懇願にシャルロッテは頷き両手を離す。解放された両者は地面に倒れ、同じように頭を押さえ呻る。子供を躾ける母親みたいだと思ったが、言うと二人が怒るだろうから口にはしなかった。

「はい、どうぞ」

シャルロッテは干し肉を手に取るとそれを二つに引きちぎりグレインとロロにそれぞれ手渡す。起き上がった二人は不満げにそれを受け取る。シャルロッテは満足したのか元の大きさに戻り、食べかけのパンに手を付ける。

「ちくしょう……おもいっきり掴みやがって」

「これでも手加減しています。本気で力を込めてたら今頃原型はありませんわよ」

「怖い事言うな」

　グレインが頭をさすりながら顔をしかめる。

　ふと、俺はあることが気になりシャルロッテに訊ねる。

「シャルロッテのその……『バース』だったかな。それはどういう仕組みなんだ？」

「んー？」

　シャルロッテは口をモゴモゴと動かしながら目を閉じ考え始める。数秒後、カッと目を見開き言った。

「分かりません」

「分からないか」

「深く考えずとも、気合を込めて念じるとワーッとなってバーッという感じで能力が使えるんですから」

「分からなくもない」

　ロロが言った。

「私達エルフが扱う魔術は人間のと同じものだが、習得までの過程がだいぶ違うらしい。エルフは呪文を覚えたあとは訓練してるうちに使えるようになるが、人間はそれだけじゃうまくいかないらしい」

「あたりめーだ。お前らエルフと一緒にすんな」

　グレインが干し肉を噛みちぎりながら言った。

「そりゃ訓練は大事だがな、魔術ってのは一種の学問なんだよ。一つ一つの仕組みや法則を理解しなけりゃ魔術は使えねえんだよ、少なくとも人間はな」

「だそうだ」

「なんだか大変ですわね」

　シャルロッテは水を飲んで一息つき、ゴロンと草原に寝転がる。

「そう言えば結局あの黒い水晶の正体も分からずじまいでしたわね。あれも魔術によるものなんでしょうか？」

「さあな。少なくとも俺はあんな魔術今まで見たことない」

「同じく」

　ロロも頷く。

「魔術ならそれを唱える使い手がいるはずだが、結局あの後国中捜索しても何も見つからなかったからな。魔力が関係しているのは確かだと思うんだが」

「魔力か……」

　俺がそう呟いた後、つなげるようにシャルロッテが口を開いた。

「魔力ってなんなんでしょうね」

「え？」

「だって魔術師さんと狩人さんが使う魔術も魔力だし、あの黒い水晶も魔力、私が持つバースだっておそらくは魔力によるものでしょう。なんだかすごい物質？ですわね」

　シャルロッテはぼんやり自分の手を見つめる。

　俺は今まで魔力について深く考えたことはなかった。魔術になじみがなかった事に加え、空気や水のように、余りにも身近な存在であったからだ。だが確かに、この魔力というものはあまりも不可思議な物質だ。噂では魔族や魔物の誕生にも魔力が関係していると言われている。そして前回の小人の国の一件……この魔力という物質は、一体何なのだろうか。皆がその考えに行ったのか、しばらく黙り込んでしまう。

「ま、どうでもいいだろそんなこと」

　グレインがそう言ってズボンについた土を掃い立ち上がる。

「そういう小難しことは学者様にでもまかせとけ。俺達はこの魔力を便利に使わせてもらう、それでいいだろ」

「……そうだな」

　確かに、ここで考えていても答えが出る物じゃない。俺はそう考え荷物を持ち立ち上がる。

「おらロロ、干し肉半分やったんだからさっさと立ってキリキリ歩きやがれ」

「なにがやっただ図々しい。そもそもあれは元から私のでだな」

　二人がまた言い争いを始める。シャルロッテが『止めましょうか？』という目でこちらを見てくるが、俺は首を横に振った。もう食事中でもないし、やりたいようにやらせればいいだろう。そう考え、二人の喧嘩が収まるまで待つことにした。