第3話 再起
「誰だお前?なんでここに……」
目覚めたばかりの頭を叩き起こし、俺はそいつに問いかけた。別の牢屋にいる女たちも予期せぬ来訪者に目を丸くしていた。
「俺は、色々あって旅をしてるんだ。けど今日立ち寄った村で盗賊に攫われた人を助けて欲しいって頼まれた。だから来た」
「来たってお前…」
恐らく残った村の住人が藁にもすがる思いでこいつに助けを求めたんだろう。そんな頼み普通引き受けるか?一人で盗賊団全員を相手にする気か?何の見返りがあって? 次々に湧いてくる疑問を頭の中に押し込む。理由がどうあれもうここまで来たのなら、今更そんな事を聞いても無意味だろう。
「……なら、さっさとあそこの女たちを連れてけよ。ここまで運よく来れたなら、もしかしたら逃げ切れるかもしれないぜ」俺は身をよじり女達が閉じ込められた牢を顎で示す。
「あなたは?」
男の問いに俺は自嘲気味の笑みを浮かべる。
「俺はいいんだよ。元々ここのやつらの仲間だ、今更どのツラさげて助けてくれなんて言えるかよ」
「ここの盗賊は元々義賊たちの集まりだって聞いた。あそこの村の人も何度か助けてもらったと」
「前まではな、今は違う。ダラムが団長になってからは単なる薄汚れた野盗共だ」
俺は吐き捨てるように言う。
「俺はあいつらに加担するのを拒否してこうなった。正義感なんかじゃねえ、くだらねえ感傷だ。どうにもできないくせによ…はじめっから俺のしてきたことは全部間違いなんだよ」
俺は何故見ず知らずの男にこんな事を話しているのか。遺言か、あるいは懺悔の言葉でも聞いてほしいのか。
「無駄話しちまったな、さっさと行けよ。モタモタしてるとあいつらが気付き始める」
「分かった」
男は牢屋の前に行くと、腰に下げていた剣を抜き、柄で牢屋の錠前を叩き壊した。扉が開き中から捕えられていた女たちが出てくる。その表情には少しだが活力が戻りつつあった。俺は再びうなだれ、目を閉じた。
これでいい。あの女たちが助かれば、少しはダラムの鼻も明かせるってもんだ。あとはあの男がうまい事やるのを願……。
ガギッ!という音が俺の耳に響いた。目を見開くと、男が俺の牢屋の錠前を破壊し、中に入ってきていた。
「なにしてんだお前?」
「開けた」男は変わらぬ表情でそう言った。
「話聞いてたか?俺は助けなくていいんだよ」
「話は聞いた。そのうえで開けたんだ」
「意味が分からねえ」
男は俺の前まで来ると剣を振り上げ俺の両腕を吊り下げていた鎖を破壊した。
「痛え!」急に支えがなくなり地面に倒れこむ。
「あなたがしてきたことが間違いなのか、俺には分からない。というか知らない」
足についていた鎖も淡々と叩き壊す。
「でも一つだけわかる。ここで終わるのは無意味だ。償いにもならない。だから開けた」
「……俺にどうしろってんだ」
俺は座りこみ、男の顔を見上げた。
「自由にしたらいい。このまま逃げてもいい、まだ死にたいなら死ねばいい。だけどもし良ければ」
男は屈み、俺に手を差し出した。
「手を貸してくれないか、俺達のために。その後死ぬなら、ここで死ぬより意味があると思う」
俺はその言葉に少しの間固まり、そして噴き出した。笑う俺を見て男は居心地悪そうに頬を掻く。
「そんなにおかしかったかな」
「あたりまえだろ。『死ぬなら俺に協力したあとで死ね』ってそんな誘い方あるかよ」
「交渉は苦手で……」
ひとしきり笑った後、大きく息を吐くとまっすぐ男を見据えた。
「なんか、死ぬ死ぬ言ってたのがアホらしくなっちまった。ああそうだ、意味ねえなこんなの」
「じゃあ」
「ああ、俺にもケリつけなきゃいけねえことがあった」
俺は差し出された手を掴む。
「いいぜ、協力してやる。俺はグレイン・ノッカー。お前は?」
「アルヴァ」
男が掴んだ腕を引っ張り俺を立たせる。
「アルヴァ・ロードランド。それが俺の名前だ」
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