大神家の朝
「ふああ、ねみぃ…」
瞬が寝ぼけ眼で階段を降りてリビングに入ると、
「おはよう。やけに早起きだな」
「ああ、はよ…」
父である
「なんだかまだ眠そうだな。誰に起こされたのかな?」
「別になんもねェよ」
昭仁の言葉に内心戸惑う瞬。昭仁は仕事柄なのかやけに勘が鋭い。それを警戒した瞬はその問いかけを一蹴してソファに座った。
「そうか。ならいいんだが…」
「それより、仕事はいいのかよ」
「頑張ってはいるんだけどね。昨日から筆が進まないんだよ…」
昭仁の仕事は小説家。それも今をときめく人気作家である為、毎日執筆に追われているのだ。
そして肝心の神主の仕事は祖母の叶恵が亡くなった祖父に引き継いで行い、昭仁とその妻、つまり瞬の母である
「…つーか、母さんはどこいんだよ」
瞬はキッチンを一瞥すると、普段であればそこにいる筈の彼女の姿が見当たらない事に疑問を投げかけた。
「ああ、それなら……」
——ガチャ
「昭仁ー、朝食はどうする?」
答えようとした昭仁の言葉を遮るようにリビングに入ってきたのは今話題の妃咲。
「いつものトーストを頼むよ」
「相変わらずね〜」
「ルーティンのようなものさ。これを食べると仕事が捗る気がしてね」
「わかったわ。すぐ用意するわね」
自分への返事はどこにいってしまったのかという不満も抱えながらそんな会話を聞いていた瞬だが、目も覚めてきてしまった事だし早く朝食をとって部屋に戻ろうと考えてから口を開いた。
「母さん、俺も朝ご飯頼む」
ソファから視線を妃咲に移せば、
「あら、瞬ちゃん!起きてたのね!
おはよう。今日は随分早起きね〜」
元気かつ嬉しそうに笑顔で答える妃咲は俗にいう親バカだ。
「すぐに作るから待っててね!」
妃咲は語尾にハートマークがつく勢いでそう言うとキッチンへと駆け込んだ。
—————————————……
それから十五分後。
「はい。瞬ちゃん出来たわよ」
テーブルには白ご飯にお味噌汁、だし巻き卵に焼きジャケ、加えてほうれん草のおひたしといった古典的な朝食の風景が広がった。
「ああ、さんきゅ…。いただきます」
瞬は両手を合わせて挨拶すると、お味噌汁から手をつけて朝食を取り始めた。
「はい、召し上がれ」
妃咲がニコニコしながら瞬が朝食をとっている姿を眺めていると、
「随分脂ののった鮭だな」
瞬の前に並べられたおかずを見て妃咲に話しかける昭仁。
「そうなの!昨日たまたまお魚屋さんでサービスしてもらっちゃったのよ。
それで、昭仁のはこれ」
そう言って出されたものはこんがりと焼かれたトーストと、ジャムと餡子とバター。
「ありがとう。美味そうだ」
昭仁は新聞を置くと、テーブルに向き直った。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
こうして二人の朝食が始まった。
「妃咲は食べないのか?」
「あたしは叶恵さんと一緒に食べようかと思ってるわ」
「そうか、母さんとか…」
「じゃあ、あたしはまた少し手伝ってくるわね」
そう言うと妃咲はリビングを出て行った。
「瞬、最近学校はどうだ?」
「…普通だよ、普通」
「そうか。それならいいが、あまり無茶はするなよ」
「………ああ」
静かになったリビングでそんなやり取りをしていると、あっという間に二人とも食事を取り終えた。
「「ごちそうさま」」
そう言うと二人はキッチンにお皿を片付けると、瞬は部屋に、昭仁は書斎に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます