妖なんでも相談所

くるみ

望まない訪問者



「……帰れ」



この男、大神瞬おおがみしゅんの家は代々受け継がれている神社である。


その家柄もあってなのか瞬は幼い頃のある経験から幽霊や妖の類が見えるようになってしまった。


それからと言うものの…—



「お願いですよ。助けて下さい」



部屋で休んでいた瞬の安眠を妨害したのは目の前で土下座をしている烏天狗。彼の名はしのぐという。



「朝早くから起こしやがって…。

今日は学校があるんだ。お前に付き合ってる暇はねェ」



仕方なく起き上がって学校の準備を始めると、その様子を見て焦ったのか凌が瞬の足に縋り付いた。



「せ、せめて何か式神的なものだけでもお貸し下さい!」



そう。このように特殊体質を理解した妖達からの頼みが絶えないのだ。



「……前に貸して数時間も持たずに式の気配が消えたんだぞ。太刀打ちなんか出来るわけねぇだろ」



今回の依頼は大天狗のご機嫌取り。この季節になると一時的な花粉症を発症するらしい。そしてそれに癇癪を起こして暴れ、手がつけられなくなるという。



「頼みます!手ぶらで帰ったらわたくし周りの者に何とどやされることか…」

「……どやされろ」

「一生のお願いですから!」

「子供かよ!ってかその台詞何回目だと思ってんだ!」



瞬も初めて聞いた時は天狗にも花粉症があるのか、と可愛い程度にしか思っていなかった。



「大天狗様のご機嫌を損ねるという事はこの街にも影響が出るんですよ!」



しかし、その威力を目の当たりにしてからは極力関わらないように必死なのだ。



「それお前が当たられたくない言い訳みたいなもんだろ」

「ちょっと手を止めて!制服を着始めないで!」

「てめッ、おい!離せ!制服は学生の義務だ!」



腕をがしりと掴み、瞬の妨害をする凌。彼は見た目こそ若いけれど本人曰く五百年は生きているというから驚きだ。



「あああ!わかったよ!式神貸しゃいいんだろ!」

「瞬殿!誠にありがとうございます」



そう言うと瞬は懐から人型の紙を数枚取り出して手に持つと、そのまま人差し指と中指を立てた。



臨兵闘者皆陣裂在前りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん…—

式よ、我汝に力を与える。よって汝我に力を貸せ」



呪文を唱え終わるとともに青白い光が瞬を包み込む。

その瞬間、



——ボンッ



「おお!お見事!」



そこには数体の人型をした生き物が現れた。



「いいか。お前らは今日一日、こいつの指示に従ってくれ」



瞬が親指で凌を指さしながら式神に話すと、式神はこくんと頷いた。



「いいか!一日は持たせろよ!」



瞬はくるりと振り返り、凌に指をさして怒鳴ると窓を開けた。



「さぁ、出て行け」

「全く厳しいお人だ」



着物の袖で涙を拭うような仕草をした凌は、窓からバルコニーに出ると先程お願いした式神に自身のものと見られる羽根を持たせた。



「では、私に続いて下さい。貴方方は羽根を持っているだけでよろしいですからね」



そう式神に伝えると、ひょいとバルコニーの手すりに飛び乗った。



「瞬殿。誠に感謝致す。ではまたよしなに」

「けっ、二度と来んな」

「ははっ、ではこれにて……散」



そう言って礼を言って笑うと、一言とともに一瞬で空へと飛び立ってしまった。



「見かけによらず相変わらずはえーなァ」



それを見送ると瞬は頭を掻きながら、窓を閉めて自分の部屋を出て行った。



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