嘘をつけない僕と嘘しかつけない彼女

@takuan06

第1話

僕は嘘がつけない。何も嘘なんかつく必要はないし、つけなくても問題はないだろうと君たちは言うかもしれない。ところが必ずしもそうとは言えないんだ。何を言っているのかわからないって?それなら例え話をしよう。

「私なんて全然かわいくないから・・」「だから人気が出ないの・・・」

女の子特有のアレだ。こんな時に円満に話を進めるには

「そんなことないよ」「十分可愛いよ」

こう言う感じのやさしい言葉をかけるべきなのだろう。

しかし僕にはそれができない。そんな場面で僕の口から出るのは

「そうだね。そんな言葉を口に出す時点で君の底が知れるよ。」

等という直球な言葉だ。当然その女の子の機嫌はみるみる悪くなりそのままサヨウナラ。理解ってもらえたかな?嘘がつけないと困るということが。特に高校1年生の僕には今後も嘘がつけないと困る場面が何度も訪れることとなるだろう。今から将来のことが憂鬱だ。大学、就職まだまだ嘘をつかないとやってられない環境は続いていく。そもそも就職できるかどうかでさえわからない。就職には面接がついてくる。その面接を突破できる気すらしない。ああ、憂鬱だ。いっそのこと個人業を出来るようなスキルを身に着けてやろうか・・・さてそんな暗い将来ばかり気にしてもしょうがない。せめて高校生活くらい明るく華やかなものにしてやろう。なんて考えられるわけがなかった。なぜかって?それはいきなり最初の関門である自己紹介がやってくるからだ。自己紹介なんて名前と一言何か言って終わりだろうと思うかもしれない。しかし問題はそのあとにやってくるのだ。自分で言うのもなんだが僕のルックスは悪くはない。だから普通にしていると人がそれなりには集まってくる。しかし周りのやつらはこの症状のことなど知る由もない。だからいろいろ話しかけてくる。最初の二・三日は誤魔化しもきく。しかしそのうち僕の化けの皮は剥がれ本性を現す。そしてこの本性のせいで皆失望し離れていき僕は孤立する。孤立するだけならまだ良い、最悪のパターンだといじめに発展する。現に中学生の時はいじめへと発展した。しかも僕のこの症状は病院で診断書をもらえる類のものではないから教師も周りの大人も僕の性格に問題ありで片づける。僕の味方はいなかった。だから僕は同じ過ちを繰り返さないように自己紹介を考えてきた。さあ、お披露目の時間だ。

「初めまして木戸悠太です。僕は嘘がつけません。だから深く関わりに来ないでください。みなさんを傷つけることになります。」

僕はそれだけ言って席に戻った。クラスメイト達は数人を除きまるで鯉みたいにポカーンと口を開けている。次に自己紹介する人には少し申し訳ないな。などと考えていると僕の次の出席番号の娘が教室の前に立った。見た目はいかにもな美人系。モテそうだし人生イージーモードだろうなどと勝手な妄想を繰り広げていた僕に衝撃が走った。失礼、僕だけではなく教室全体に衝撃が走った。

「初めまして京田弥生です。私は嘘しかつけません。だから私になるべく関わらないでください。私もみんなも傷つくはめになります。」

それだけ言うと彼女は席に戻っていった。僕の頭は一瞬にして彼女のことで埋め尽くされた。彼女と話してみたい。僕と真逆の境遇の彼女のことをいろいろ知りたい。僕の知的好奇心が刺激される。それ以降の自己紹介は全く頭に残らなかった。僕にとって初めての理解者となりうる存在が現れたのだ。

 その日はHRだけだった。僕はHRが終わった後すぐに彼女の席に向かおうとした。だがしかし現実は残酷だ。クラスメイトが僕の周りに集まってくる。勘弁してくれ、さっき僕には関わるなと言っただろう。もしかしてその一言がかえって興味を引いてしまったのか。失敗した。とにかく時間が惜しい、早くどいてくれ。僕の思いとは裏腹に有象無象は質問を飛ばしてくる。

「嘘しかつけないってマジ?」「今からいろいろ質問するから答えてよ。」

ああ、煩いなあ。また本性が出てしまう。

「僕は君たちに興味がない、彼女にしか興味がないんだ。」

それまでやいのやいのと口うるさかった有象無象は静まる。やってしまった、だから話しかけるなと言ったんだ。まあ、これでもう関わろうという気はなくしただろう。そんなことよりも彼女と話すことの方が僕にとっては重要なのだ。再び彼女の方に目を向けると彼女はもういない。どうやらこの喧騒にまぎれて帰ったようだ。なかなか手ごわい相手だな・・しかし明日からが楽しみだ。何の楽しみを見いだせなかった高校生活に一つの楽しみと希望を見出すことができた。さて、彼女が帰ったならもうこの教室に残る意味はない。さっさと帰って今後の作戦を立てよう。席を立った僕を一人の男が呼び止めた。

「ちょっと待ってくれ、少し話をしないか?」

なんだコイツ、さっきの僕の言動を見て話かけてくるとは変な奴だな。

「さっきの僕の話を聞いていた?僕は彼女に以外興味がないんだ。」

そんな僕の態度を気にも留めずその男は続ける。

「俺は柏原幸一郎。お前のその性格気に入った。だからいろいろ話してみたいと思ったんだ。」

は?コイツとんだ変人だな・・だけど興味深い。この高校はもしかしてアタリなのか?

「どういうことかは分からないけど君にも少し興味がわいた。よろしく柏原君」

「コウでいい。俺もお前のことはリョウタって呼ぶから。」

「そう、よろしくコウ。」

「今日は忙しいみたいだから詳しい話はまた明日。それじゃあ。」

「ああ、また明日。」

本当に面白くなってきた、京田さんにコウ。僕にとって興味深い人物が二人もいるなんて。明日からの高校生活は退屈しなさそうだ。

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