今日はホワイトデー



 友達以上恋人未満の関係。

 はたから見れば、羨ましがられるこの関係はとても苦しい。

 相手の気持ちがわからないまま、時間は過ぎていく。

 確かに二人だけで遊ぶし、LINEも毎日、電話も週に二回はする。

 それがどれだけ幸せなことか私にだってわかってる。

 だけど、それでも。

 もう言ってもいいんじゃなかろうか。

 迎えた高校最後のホワイトデー。

 私たちがこの関係を続けて一年が経ったその日、私はとある覚悟を決めていた。


「もし、告白されなかったらこの関係をやめる」


 こんな不毛な関係をいつまでも続けるわけにはいかない。

 このままでは、大学になっても社会人になっても、ダラダラと関係を続け、結婚適齢期を過ぎてしまうかもしれない。

 だから、私は朝早くに家を飛び出し、あいつの家の前まで来ていた。

 あいつの実家は島にあるため、高校の近くで一人暮らしをしている。

 アパートのあいつの部屋のドアをトントンと控えめに叩く。

 しかし、一向に気づく気配はなかった。

 今度は少し強めに叩く。

 すると、スマホがかすかに震えた。


 -おはようございます-


 そのメッセージに思わず、笑みがこぼれそうになる。

 いかんいかん、と頬を引き締め、返信をする。


 -恵美です。ドアを開けてください-


 すると、部屋の奥で慌てたような物音が聞こえた。

 そして、すぐに返信が返ってきた。


 -彼女気取りはやめてください-


 彼女気取り……?

 その言葉に首をかしげる。

 彼女気取りとは一体何なんだ。

 確かに、私たちは恋人ではない。

 だけど、お互いに想いは伝え合っているし、いい雰囲気になっていたはずなのに。

 私はLINEの友達からあいつを削除した。

 これからは、新しい人生を歩むのだ。

 人生最悪のホワイトデーになってしまったと、家まで帰りながら思う。

 何がいけなかったんだろう。

 何度考えても、その答えは出ないまま。

 深く考え過ぎていたせいか、私は目の前に人が立っていることに気づかなかった。


「うわっ!!え、えっとごめんなさい!!」


 恥ずかしさのあまり、急いで通り過ぎようとすると、不意に腕を掴まれた。

 そこで私は初めてその人を見た。

 そして、私は声をあげて叫んだ。


「ネコミミ〜〜!!」

「何だ」

「いや、あの、え〜〜!」

「うるさい」


 その人は何とネコミミをつけた男性だった。

 成人を過ぎているようにみえ、なによりカッコいい。

 そして、ネコミミをつけている。

 すると、突然彼が口を開いた。


「飯」

「は?」

「飯くれ」


 一度は断ったのだが、彼があまりにもしつこかったので、私は渋々家まで彼を連れてきた。

 幸運なことに今日は親が結婚記念日で旅行に出かけていたので、家には誰もいなかった。

 彼は一目散に部屋に入ると、まず蛇口に飛びつき、じかに水を飲み始めた。


「コップ、コップ使いなよ!」


 私が何を言おうと、おかまいなし。

 彼は水を飲み続けた。

 思う存分、飲んだそのあとは私に飯を要求してきた。

 冷凍庫に残っていたのは、昨日の夕飯の残りである、鰹のタタキだった。

 それを彼の前に持っていくと、彼は手で食べ始めた。

 綺麗にお皿まで舐めて、全てを食べつくすと、お腹いっぱいになったのだろう。

 今度はその場で寝始めた。

 親が帰ってくるのは明日のお昼。

 それまでに彼には帰ってもらわないといけないのだが。

 しかし、彼の寝ている姿を見ていると、私までウトウトしてしまい、とうとう眠ってしまった。


「恵美ちゃん!恵美ちゃん!」


 次の日、私は母の声で目が覚めた。


「お母さん、おはよう」

「おはよう、じゃなくて、何?このネコ?」

「ネコ?」


 私は徐々に昨日の記憶を思い出していた。

 そうだ、ネコミミをつけた男性を部屋の中に入れて、食事を食べ終わった途端に寝始めて……

 どうやら、私もつられて眠ってしまったらしい。

 待てよ、この状況ヤバくないか。

 私は慌てて、彼が寝ていた場所をみた。

 すると、そこには白くてキリッとした顔のネコが立っていた。


「ネコ、飼ってもいいけど、ちゃんとお世話するのよ〜」

「はーい」

「それで、そのネコの名前は何にするの?」

「そうだな〜、クーちゃん!この子はクーちゃんだよ!」


 昨日見たものが全て幻だったとは私には思えない。

 だけど、クーちゃんが私を元気にしてくれたことだけは事実だ。


「クーちゃん!」

「にゃー?」

「これからもよろしくね!」


 何処かでお腹へった、と言う声が聞こえた気がした。

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