第3話 2.怪文書侵入
その夜、西棟5号館にある大学生食堂は、子供たちの声でざわめいていた。
ここでは能率のいいように、前後二回に分けて食事の時間が決められた。
ボランティアで避難児童の世話を引き受けた大学生が、各テーブルに分かれて座り、少年少女の話し相手をしている。その一人がレイクたちの席にもいた。
大「避難生活といっても、今この国が戦争してるわけじゃない。ただみんなは、島の南側で発生したウィルスに感染しないために、ここへ来てるんだ。君らのお父さんやお母さんも、ちゃんとした医療施設があるから町にいても心配ないし、ここには夏のキャンプに来てるんだと思って、団体生活の勉強でもすればいいさ。
…君らの中で、ボーイスカウトに入ってるのは?」
2,3人が手を上げた。
大「君たちはよく分かってるはずだから、積極的にみんなを導いてあげてくれ。他の者は、彼らや班長の言うことをよく聞いて生活すること。時々ケンカすることもあるだろうが、そんな時は僕なんかの年長者に仲裁を任せればいい」
そばに座っていた小さな男の子が、大学生に尋ねた。
子「ちゅうさいって?」
大「仲直りさせることさ」
レ「チビたちがケンカしてギャーギャー騒いでいるとな、このお兄さんがケリを食らわせにやって来るんだよ」
大学生はレイクの言葉に笑うと、言った。
大「その役は君が引き受けてくれそうだな」
レ「班長のユースがやりますよ」
ユースはそれを聞いて、ニコリともせずに返した。
ユ「ケリならサラが得意だ」
サ「何よ、ひどいわね!」
食事が終わって、皆が席を立ち始めた。洗い場で順番を待って自分の食器を自分で洗い、水気を切って片付けてから食堂を出て行く。
廊下にサラとチェリーとレイクが出てきたが、ケイは食事当番なので元々いなかった。
サ「あれ、ユースは?」
レ「班長会だろう、7時からの」
チ「時間通りに動いてんのね。一生分のスケジュール表が、頭の中に出来てるんだわ」
レ「お前たちって正反対だよな。よくそれでデートとか出来てたもんだ。今もって不思議だよ、あいつはいつだってやる事が決まってるし、お前はいつだって風のようにどこかへ吹かれて行っちゃうってのにね」
サ「その風じたいがユースに向かって吹いてたのよ、前は」
レ「今は?違うのか?」
サ「さあね。チェリーは認めないかもしれないけど、嵐になるかもよ、そのうち」
レ「ハリケーンか、ぞくぞくするじゃないか」
並んで歩くサラとレイクの前を、手を後ろに組んでブラブラとチェリーは歩いていた。その彼女が、くるりと振り向いて言った。
チ「他人事だと思ってるわけ?台風の目がどこにあるかも知らないで」
怒ってはいないのだが、強い口調でそう言うと、彼女はスタスタと一人で歩いていってしまった。
知らない仲ではないので、レイクは別に気にするふうでもなく、その後ろ姿を見送った。だがサラはそれを違うように取ったのか、彼の方を向いて話しかけた。
サ「どうかした?能天気なレイクが、まさか傷ついたとか」
彼はチェリーを見ながら、そのまま上の空でいる。
サ「あなたたちって結構ひどいこと言い合っても、いつもは何とも思ってないみたいじゃない。特にあなたの方が…チェリーに何言われても、いつだってヘラヘラしてる」
レ「おれが?」
レイクはサラの方を一度ふり返ったが、廊下の向こうに無表情で視線を戻した。
レ「おれだって傷つくこともあるさ、人間だからな。でも傷ついてるのは、あいつの方だよ。それもずっと前からだ。何でなのか、想像もつかないんだけど」
いつになく大人っぽい表情を見せるレイクのそばに立ち、サラはチェリーの去った廊下を無言で眺めた。
すっかり日が落ちて、夜空に星がまたたき始めた。
レイクは理学部の研究室へ行く前に、そのビルの屋上に来ていた。
最近、彼は一人でここへ来ることが多くなった。それなりに慌ただしい日常から離れて、物思いにふけっている自分に、彼はふと気がつく。
それは今現在、具体的な悩みがあるというのではなく、何か漠然とした思いなのだった。彼としては大人に向かいつつある自分が、外界ではなく己の心の中に目を向け始めているのだと、そう自己分析していた。それと同じような葛藤を、チェリーも感じているのではないか…と、レイクは思っていた。
彼は幼なじみのユースと、いつも行動を共にしてきた。家が隣どうしで生まれた年も一緒だったので、物心ついた時からお互いがすでに存在していた。そしてそれが、ごく自然な事のようになっていたのだ。
今では同じ理学科の特待生の二人だったが、彼は自分とユースの間に友情があるとは思わなかった。同年代の、他の友人との関係とはどこか違う‥大人のような、言うなれば表面上の付き合いと言ってもよかった。
一緒にいても、お互いが空気のような存在だったのだ。取っ組み合いのケンカも無かったし、何でも話せる親友とも違った。だがそれに不満は無く、寂しいことだとは思わなかった。そしてこれからも、自分たちの立場を変えることなく行くつもりだった。
しかしレイクはこのところ、現実世界に空虚なものを感じていて、それを誰かと分かち合いたかった。そんな思いは日を追うごとに強くなっていて、“今いる世界では何かが果たせない”という気がしていた。
今いる世界…つまり、この大学付属の生徒としての暮らしや生き方。そこに不満がない代わりに、喜びも見出せなかったのだ。
───チェリーは、そんな自分やユースの生き方を軽蔑している。
何故かレイクにはそう思えてならなかった。
彼女が何を見つめ、何に傷ついて生きているのか‥‥分からないからこそ、レイクはそうしたチェリーの一面に惹かれていた。彼女がまき散らすユースとは正反対の空気に、自分がどこかへ置き忘れてきた大事なものを、常に感じさせられたのだ。
その時、上空を小型ヘリの爆音が聞こえ、どんどん近づいてきた。
レイクはそのヘリが、大学内にある中央ビルの屋上に降りることを知っていた。
ヘリに乗っているのは、老住という名の理学部教授で、ケイの叔父だった。彼はまだ36歳だったが、大学では生徒や研究員のみならず、他の教授たちからもカリスマ性を認められていた。そんな彼が、いつもヘリで官庁と大学を忙しく行き来していたのだ。
ウィルス騒動が島で始まった頃、教授は政府の要請で自分の研究室に対策本部を作った。そこでは主に、コンピューターを使った情報処理の仕事を一手に引き受けていた。
レイクやユースを第二研究室へ呼んだのも彼で、レイクにとっては雲の上のような存在だった。顔を合わせる事はあっても親しいとはとても言えなかったし、噂されている彼の実力や人格を、まだ充分に知っているわけではなかった。
しかしレイクはこの大学一の巨人に対して、何故かしら不信感を抱いていた。自分が掛け値なしの信頼を寄せるには、どこか根本的な違和感が老住にはあった。そういう感情が伝わるものなのか、教授の自分を見つめる冷ややかな視線に、彼は気づき始めていた。
──あの一族とは、ウマが合わないのかも…
彼はケイのことを考えながらそう思った。彼女とはそれほど仲が悪いわけではないのだが、惹かれあうところが無いと、お互いよく分かっていた。そしてそれが何だか気まずい関係に思えるのだった。
ヘリの音を聞きながら、レイクは自然に第二研究室へ向かって歩き出していた。
下の階に降りると、彼はいつものように暗証番号を押して部屋に入った。
彼とユースに割り当てられた場所は奥の離れにあり、そこへ行って椅子に掛けておいた作業白衣を着た。
夕方からこの時間にかけて、処理すべき情報がどんどんコンピューターに入っているようだった。机の前で仕事の準備をしながら、レイクは何気なしに画面を見た。
そこに広がっていたのは、何故かいつもとは違う光景だった。彼は立ったまま、ピタリとその動きを止めた。
レ「何だ…?」
レイクが見ている前で、次々に不可解な数字が並んで増えていった。暗号文のように、アルファベット文字も所々入っている。その文章を食い入るように見つめながら、視線はそのままで机に両手をつき、ゆっくり椅子に腰掛けた。
そうやってしばらく画面を注視した後、彼はおもむろにキーを打ち始めた。
何者かがよこしたその暗号メールの中に入り込んで、一緒に会話をしようとしたのだ。だが文字は変わらず、一方的に出続けた。そこでアクセスするのはあきらめて、今度は文面を写しにかかった。
研究室の他の人間に報告することなく、レイクはユースが来るまで一人でその作業を続けていった。
ユースが部屋にやってきたのは、それから30分ほど後のことだった。
ユ「何だって?」
レ「だからこれは、おれたち宛てだって言ってるんだ」
ユ「僕と君に?誰がそんなメッセージを送るっていうんだ。…いや、送れるのかと言うべきだな。これは大学専用の機器だ、政府と軍にしか直結してない。他のどの分野からも、介入は不可能な物だ」
レ「だったら、考えられそうなのは内部しかないだろ。でなきゃ、今までにない強力なハッカーか何かだ」
ユ「大学構内から誰かが?」
レ「それとも、この機械自体を使ったかだ」
ユ「ここは立ち入り禁止だよ。暗証番号か、カードがないと入れない」
レ「誰か心当たりはあるか?所員たちの中で」
ユ「無い」
レ「おれも無い」
ユ「でも下手に知らせない方がいいな。まだ君、誰にも言ってないだろ」
レイクがうなずく。
ユ「上出来だ。教授が来たら、その紙を…」
レ「ちょっと待て、もう一回プリントアウトするから。そちらを持っていってくれ」
キーを打ち始めるレイク。ユースはロッカーに掛けてある、自分の上着を取りに行った。
夜間作業が始まり、研究室の中はまだ人が大勢いて働いていた。
その二研所員がいる大きな部屋のとなりが、老住教授の応接室と個室だった。
教授もさきほど中央ビルの方からやってきて、こちらの経過を聞き始めた。室長の報告が済んだ後、ユースは大事な話があると個室の老住に申し出た。
やがて二人が呼ばれ、報告に行くことになった。
応接間を通りぬけて続きの奥の部屋へ入っていくと、そこはこじんまりした正方形の部屋だった。壁の隣り合った二面に窓があり、今はブラインドが下ろされていた。
窓を背にして大きな書き物机があり、そこにこの部屋の主の老住が座っていた。
二人は机の前まで行って立ち止まった。人払いがしてあるのか、部屋には彼らだけで所員はいなかった。
ユースの提出した紙が老住の机の上にあり、教授はそれに目を通していた。
老「暗号は解読したか?」
紙面から目を離さず、彼が尋ねた。独自の解読をレイクがしたと言ってあったので、そう聞いたのだ。
レ「これです」
持ってきた紙をレイクが差し出し出すと、今度は二人の方を見ながら、教授はそれを受け取った。無言で内容を読み始め、少し時間が経過した。
老住教授は名前の通り日系で、この島の出身だった。しかしアメリカを始めとして、各国の大学を渡り歩いた国際人でもあった。その風貌はくせ毛らしい髪質と共に、どこか国籍不明な特徴も帯びていた。
そんな彼を眺めながら、レイクは姪のケイとの類似点を探してみた。
──わし鼻で、段がついているところ。目の下のまつげが長い。
教授だけの特徴は、目つきが悪くてヘビースモーカーで、昔の映画に出てくるマフィアみたいな顔。押しが強そうで、裏切り者を容赦なく銃殺する…
レイクがそんな想像をしながら立っていると、絶対そんなことは考えてなさそうなユースが、隣から発言した。彼は咳払いをしてから話し始めた。
ユ「あの、意見を言っていいでしょうか?」
それまで解読文に集中していた老住が、妙に鋭い目を上げるとユースを見た。
老「ああ、いいよ。しかし君らに身に覚えはないんだろ」
ユ「はい。僕たちの意見…つまり、僕とレイクの考えたのは──ある程度、この研究室の事情を知っている人間ですね。もし第三者がハッキングして侵入したとするなら‥中央ビルの施設から、何らかの形でここへの侵入路を作ったと思いますけど、かなり難しいです」
ユースは二研の所員に疑いがあるとまでは言わなかったが、老住もその事を考えたようだった。
老「確かに、この部屋に入り込む方がたやすいだろう。誰か手引きした者があったとしたら、なおのことな」
そう言いながら彼は腕を組み、机の上にその肘を乗せた。
老「君らは何時から何時まで、ここを留守にしていた?」
レ「5時から7時30分くらいかな」
ユ「僕は遅れて、8時ごろ来ました」
老「最初に発見したのは?」
レ「僕です」
今度はレイクの方をじっと見つめ、老住は手にした紙を振った。
老「これは君の解読だったな。──レイク、この内容をどう思う?」
レ「はあ、事実ではないと思いますけど…イタズラにしては、力をかけ過ぎのような気もします」
老「そうではなくて、何かが足りない、少ないとは思わんか?」
何の事だかユースは分からず、レイクと老住を見た。
レイクはじっと押し黙り、立ちすくんだまま教授を見つめている。沈黙が流れた。
老住が、視線をレイクに釘付けたまま言った。
老「ユース、その他の原文を、レイクはどこに置いたかな」
ユ「え、どこか抜けてました?暗号文は全部もってきたはずだけど…プリントする前の文のことですか。画面を確かめれば分かると思いますが」
老「今すぐ見て来い、すぐにだ!」
ユースは急いで部屋を出て、レイクの机に向かった。
先ほどやり直していたようなので、レイクが印刷した初めの紙を見てみた。もしかしたら、間違えたほうを自分が提出したかもしれないと思ったのだ。
確かにこちらの方が文面が多かったので、とりあえず持っていくことにした。
教授の部屋の中では、まだ二人がにらみ合っていた。レイクは蛇ににらまれたカエルのように、ただ動けないだけなのかもしれなかった。
ユースが無言で紙を手渡すと、老住はそれを元のプリントと見比べた。彼は少年たちをにらむと、両方の紙を片手ずつ持って読み始めた。
老「───新島大学理学部・第二研究室の、二人の高校生に告げる。
今すぐそのプロジェクトから手を引け。君らのやっている事はこの島だけでなく、世界中を滅ぼすことにつながる。
政府を信用するな。大学は彼らの命令で悪事を働いている。体制に組み込まれて悪の手先になる前に、君たちは我々の存在を知るべきだ」
そこまで読んでから、老住はもう一枚に目を移して言い直した。
老「悪の手先になる前に、君たちは我々HPOの存在を知るべきだ」
老住はじっとレイクを見ると言った。
老「HPO──ハルカイリ人民開放組織、通称・反乱軍。1947年に本島で最初の決起集会を開き、新島につながる関門大橋の爆破を宣告。これによる政府・国防予備軍との衝突で、死傷者524名…
わざわざ調べたんだな、カジマ君。君が反乱軍のことを知らない訳がないと思うがね」
レ「知りませんでした」
老「だが君はこれを隠そうとした。その事は実に興味深いね。 さて、この続きだが…」
さらに先へ進めようとする老住をさえぎって、レイクは絞り出すような声を上げた。
レ「この暗号は、あなたが出したんだな」
その言葉に、老住は可笑しげな表情を見せて上体をそらした。ユースの方は黙って幼なじみを見つめていた。
レ「昨日あなたは研究員の誰かに、この文書を手渡した。おれたちのいない時に、コンピューターに入録しておけと言った。…そうでなくちゃ、内容が多いだの少ないだの、言うはずがない」
教授が否定をしなかったので、ユースは愕然となった。
ユ「本当ですか?なぜ僕らを試すようなことを」
老「そんなつもりはないよ。研究にスパイはつきものだがね。君らこそ、こんな手段を使って、私を調査してるんじゃないのか?」
怒るというよりは、むしろ楽しげに教授はそう言った。逆にレイクは全身を張り詰めるようにして、こぶしを握りしめている。
その間に立って、ユースはどう対応していいか分からず、困ってしまった。
レ「そんな反乱分子があるのは知ってたけど、名前だけで…くわしい事なんて、さっき調べて初めて分かったんです」
老「それでは、なぜ除外したんだね?」
レ「知りません‥発作的にです」
老「こういう場合において、君のしたような隠匿行為が重大な罪になると、知っておいた方がいいだろう。君はまだ15歳ではあるが、私には君らをこの研究室に呼んだ責任があるのでね」
ユ「教授…」
レ「すみませんでした。分かっているとは思いますが、僕一人でした事です。罰は受けます」
ユ「レイク、君…」
老「いいだろう。ユース、君は戻って仕事を続けていなさい。レイクにはもう少し、聞くことがあるから」
ユースは何か言いたそうにしたが、結局は自分を抑えてその場を後にした。いつもは冷静な彼が、今はさすがに不可解そうな、相手を心配した面持ちになっていた。
ユースには、一つの問題を考え始めると、周りが見えなくなることが良くあった。
教授の部屋を出てきた時もそれで、あちこちの物や人にぶつかりながら歩いた。所員の一人がつかまえて自分の席に座らせるまで、彼はずっと腕組をしながらつぶやいていた。
妹のサラはそんな時、よく“ユースの夢遊病が始まった”と言うのだった。
とんでもなく笑ってしまう、こうした間の抜けた行動を彼は取ることがあった。それが天才性から出た習癖であるにしても、周りから見ると何か微笑ましく、彼をロボットから人間に引き戻す役割を上手く果たしていた。そのことが逆に、人に好感を持たれる元になっているのだった。
彼に感情が無いというのは正しい見方ではない。例えばこの時も、ユースにしては全く混乱した頭と心の状態ではあったのだ。しかしこうした事態に、彼は一つ一つ答えを出し、問題をクリアしていくことが出来た。しかもそれを常人にはない速さで片付けることで、“機械のような人”という印象を皆に与えてきたのだった。
やがてレイクが(ひそかに所内の皆が注目する中で)、応接室のドアを開けて出てきた。
その時にはユースはすでに答えを出し、いつもの自分を取り戻していたので、冷静に相手を観察することが出来た。
レイクは自分が思っているほど、うまく感情を処理できない人間だった。それは処理する能力が劣っていたり、遅いというものではなかった。
何か他人とは違った処理の仕方が彼にはあって、答えを出した後でもまだスッキリしない難問を、自分に問い続けているのではないかと思えた。そんな訳の分からない彼の思考回路に、ユースはある意味、尊敬に近いものを覚えていた。
ユースの方へ歩いてくる彼は、必死に平静を装おうとしていた。だがその内の興奮しきった感情を、どうしても隠すことが出来ないようだった。教授にこっぴどく叱られ、問いただされたに違いない後なのに、その目が狂喜に満ちて輝いているのが見えた。
そもそもレイクは争いを好む性格ではない。しかし何か彼にとって大事なものを見つけた時、ユースには分からない彼だけの宝物を前にした時、そんな目をすることがあった。
恐らく怒られているときも、途中から彼には教授さえ見えていなかったに違いない。それが後々危険な事態になりそうだったとしても、彼には自分のそんな性質を変えることなど出来ないのだ。
二人の席は、所員の机からは通路を挟んだ部屋の端にあった。
そこまで戻ってくると、レイクはユースの机の前でぼんやり立ち止まった。
レ「あれを送ったのは、どうやら教授じゃないらしい」
ユ「だろうね。君が上司に対して、ケンカをふっかけてるとしか思えなかったよ」
レ「反乱軍って知ってたか?」
ユ「君と同じ程度だよ。ニュースでも新聞でも、それがらみの記事を極力、政府が抑えているに違いない」
レ「学校の教科書にも出てこないしな」
二人はしゃべりながら、コンピューターで反乱軍の情報を画面に出していった。
【HPO】───反政府反乱分子の総称。初代リーダー、ナラ・カジマ。
太平洋の火山群島ハルカイリ(本島伊里市 北緯38°55′、東経180°00′)に活動拠点がある。
●歴史‥‥第二次世界大戦後、ポツダム会議にて島の処遇が検討された際、敗戦国・日本帝国政府と同盟があったため、戦争責任が課せられ審問の対象になった。その処遇に対し、当時の蛭子入島政府が異議を唱えたが、国連会議にて却下された。
米国軍による統治政策に反発し、島民が武装蜂起や決起集会を各地で行うが、連合軍の武力介入により沈静化する。その後は統治条約の破棄、統治政府の司令本部長V・ニレヤマの失脚をめざして、ゲリラ活動を展開。
1950年以後には、ハルカイリ本島の独立、環太平洋ブロック協定を提唱。
●第一次活動期‥‥戦後、ハルカイリ政府の方針
〔国連指定モデル機構としての島の復活、新島(人工島)の造成、米・英・露による分割統治、中立宣言──国家・貿易・その他一切の商業活動の中立化。学園都市としての移民招致〕
これらすべてに反対し、抗議デモと反乱活動を行う。
おもに本島における地下工作運動から増幅を続け、1950年朝鮮内乱に呼応し、ゲリラ戦のピークを迎える。1962年、1985年の二度の大規模な鎮圧部隊の攻撃により、沈静化。
●第二次活動期‥‥1989年、東西冷戦終結にともない、再び活動開始。
次期リーダー、H・チャン。A・ポルツカヤ
1995年、別動組織CGSA発足。ハルカイリ諸島にとどまらず、近隣の海洋資源地帯を拠点に、各地でテロ工作を組織、実行。
2007年より再びハルカイリ本島・新島での地下工作が活発化。
●現在‥‥2017年、2月に発生したGRK変異ウィルスについての関与は否定している。しかしロシア政府とのつながりを指摘する軍事専門家は、変わらずテロの危険性を唱えている。
現在、政府国防プロジェクトが発足し、組織の内部調査と壊滅・解体に向けて、新島大学情報部と連携して対策を進めている。情報戦略による組織完全封鎖をめざし、チームリーダーとして、大学理学部教授T・オズミ氏が提唱した…
ここまで読んできて、ユースは大体の所を理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます