パジャマでオヤスミ

食後、日が暮れるとすぐに就寝の時間だ。中世当時、蝋燭は貴重品だったから、太陽の光とともに寝起きしていた。だから日の出が起床時間である。


ヨハン「さあ、寝ようか。暗い町には追い剥ぎや獣がうろついているからな。邸宅に泊まったほうが安全だ」


ハルキ「うん。ぼくの小説も同じだ。で、寝室はどこ?」


ヨハン「寝室。そんなもの中世にはない!」


ハルキ「ええー! じゃあどこで寝るんだよ」


ヨハン「ここだ、ここ。ほら、召使がテーブルを片づけて、い草の山を持ってきただろう。そのなかでくるまって寝る」


ハルキ「そうなんだ。雑魚寝か……。邸宅っていうから、お客さん用の部屋とかあると思ってたんだけどな。ぼくの田舎のおばあちゃん家にだってあったのに」


ヨハン「まだプライバシーというものが存在していなかったのだ。主人一家が二階で、召使と客は大広間で寝る。犬と猫もいっしょだ。あとは台所。それ以外の部屋はない」


ハルキ「布団もないのか。がっかり。これじゃ寒くてちくちくして眠れないよ……」


ヨハン「まあ中世トリップの初日だからな。仕方がない。今夜はあるじに頼んで、特別にベッドをお借りしよう」


ハルキ「やったー!」


大広間の上の部屋に移動すると、大きな木製ベッドがふたつならんでいた。天蓋付きである。その垂れ布の覆いをくぐり、ハルキはベッドに入るのだが。


ハルキ「ここも藁かよ……」


ヨハン「贅沢を言うな。ほら、もうみんな眠っている。私らも就寝しよう」


ハルキ「って? なんでそこで服を脱ぐだよ? うわ、真っ裸じゃん! そのまんま藁に潜るの? パジャマは?」


ヨハン「パジャマなんぞない。脱いだ服を柱の釘にかけて眠るのだぞ」


ハルキ「そんなー。僕が書いた小説だったら、パジャマとガウン、スリッパもあるのに」


ヨハン「そもそもパジャマは19世紀のインド服がもとになって、イギリスで生まれた服だ。そのまえは男女ともにネグリジェ。いわゆる麻布のワンピースだな。さらに前は下着、中世は何もない」


ハルキ「そうなんだ。パジャマってすごく近代的な服だったのかー。中世風なのに出すのはおかしいはずだよ」


ヨハン「ぐー、ぐー」


ハルキ「もう寝てる。ちくちくして――おまけにかゆくて眠れない。虫がわいてるんだ。ああ、21世紀に帰りたい……」





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