フォークのある食卓

中世ヨーロッパのある町の大きな木造の邸宅。豪商の午餐に、ハルキと騎士団長ヨハンは招待された。

大広間の中央に組み立て式の長いテーブルが置かれる。その上にテーブルクロスがかけられ、片側だけに人々が座った。空いたもう片方のテーブルの前で、召使たちが給仕をする。

食卓にならぶのは、固いパン、ボールに入ったチキン丸ごとスープ、長ネギと玉ねぎと豚の牛乳煮、パン粉入りウサギ肉のシチュー、生牡蠣、イチジク。そして土器のピッチャーに入ったワインである。

一家のなかでもっとも若い男が神に祈りを捧げ、食事が始まった。


ハルキ「いただきまーす? ってあれ? 皿がないよ。それにフォークも。肉が食べられないじゃないか」


ヨハン「中世のヨーロッパにはまだ皿はなかったのだ」


ハルキ「じゃあどうやって食べるんだよ?」


ヨハン「目の前にあるだろう。それに乗せて食べる」


ハルキ「え? だからどれだよ?」


ヨハン「おまえはとんだ世間知らずだな。パンがあるだろうに」


ハルキ「ええ? 皿がないんだ。ということはフォークもないから、手づかみ?」


ヨハン「うむ。そのとおり存在していない。フォークの原型は12世紀ごろのイタリアが発祥だといわれている。当時は尖った二又が主流で、うっかり口のなかをずぶずぶ刺すことも多かったのだぞ」


ハルキ「いつから使われるように?」


ヨハン「1553年にイタリアのメディチ家からフランス王アンリ二世に嫁いだ、カトリーヌ・ド・メディシスが広めたと言われている。そのころから、フランスの上流階級が使い始めたのだ」


ハルキ「じゃあ中世にフォークと皿があるのはおかしいんだ。みんな、スープをコップに入れて飲んでるし、スプーンだって共用。ナイフは切り分け用」


ヨハン「食器はみなで使うものであり、個々に配られるのはあとの時代だな」


ハルキ「あ――テーブルクロスで手を拭いてる。そういえば、首から垂らすナプキンもないじゃないか。ぼくの書いた中世ヨーロッパ風ファンタジーはまちがいだらけだ!」


ヨハン「まだまだあるぞ。では次へ行くか」


ハルキ「まだまだって……、これだけじゃないんだ……とほほ」




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