梓、ご当地キャラになる1

 この激変は、商店街の商工会でも話題になった。

 ここの商店街では、2週に一度、各店舗の代表が閉店後に集まり寄合を行っている。

 その時の話だ。


 商工会の会長が、店長に話しかけてきた。

「ケーキ屋!最近調子いいみたいだな」

 威勢のいいダミ声が飛ぶ。

(まだケーキ屋扱いか、オレまだ名前覚えられてないんだ)

 店長は心の中でそう思いながら作り笑顔で、「ええ、バイトの子が来てから、めちゃめちゃ調子いいんですよ」と、頭を掻きながら答えた。

「あの子だろう、あの黒い制服の子、名前はなんていうんだ?」

「梓くんです」

「かわいい子だよな」

「僕もそう思います」

「おっぱいも大きいしな!」

「ですよね。結構ありますよね。勿論、あんまりジロジロ見ないようにしてますけど」

「だよな、でけぇよな!」

 男どもが大きくうなずく。


 男ってのは、どうにもいけない。

 この手の話しになると、年に関係なく大いに盛り上がってしまう。

 鞄屋が、「ネクタイの制服もいいですわ、あのタイが胸に乗っかってて、胸の下で浮いてる感じが・・・」と、手をわきゃわきゃ動かして、自分の趣味を披露する。

「マニアックな趣味だな。お前のところの母ちゃんもムダに乳がでけぇだろ」

 会長がすかさずツッコミを入れる。

「ありゃ、ただのデブです。デブとは違うんです!」

 鞄屋が力説する。


「フリフリの方がかわいくないですか?」

 店長はそちらの方がいいらしい。

「あの制服はいい!、ありゃ、おまえが考えたのか?」

「あれは梓くんの発案です」

「自分から、あの乳のでかさが分かる服を着るって言い始めたのか!?」

「ええ、たぶん本人はあまり気にしてないんじゃないですか?」

「はぁ~」

「おまえ、いい子みつけたなぁ~」

 男衆全員が羨望の声を上げる。


「偶然来てくれたんですよ。かわいいから客引きくらいにはなるかなと思ったんですけど、結構商才があって」

「あの店ん中で食べる客引きは、お前のアイデアじゃないのか」

「恥ずかしいですけど、ほとんど梓くんのアイデアです」

「すげーねぇーちゃんだな。かわいいし、おっぱいでかいしよ」

 会長のセクハラまじりの発言に、男どもはまたうなずく。


「あの客引きは萌えますね!」

 本屋の若旦那の鼻息が荒い。

「効果テキメンでしたよ。やりはじめて翌日には、引っかかりましたから」

「いや、男なら騙されるって!」

「騙してませんよ!本当においしいからあの顔なんです。ぼくのケーキ職人の腕が・・」

「あのほっぺたが、やわかそうなんだよなぁ~。指でぷにって押したくなりませんか!?」

「なるなる!」

「僕のケーキの・・」

 だれも店長の話を聞いていない。

「いや、さらさらの髪も清楚なカンジでいいでしょ」

「いやいや、やっぱり巨乳が」

 そんな具合にたっぷり30分以上も、笑顔でケーキを食べる姿がいいだの、髪型がいいだの、やっぱりおっぱいだろうなど、梓の話でもちきりになった。


 そんなセクハラ談義に盛り上がるなか、会長が店長のところにスリスリとやってきて耳元で囁やいた。

「ちょっと揉んだか?」

「!」

「揉みませんよ!」

 店長のおどろいた大声が響く。

「ごほん」

 さすがに限界と感じたのだろう。婦人部の副会長がこちらをジロリとみる。

「おじさま方、セクハラが過ぎますよ」

 さすがに巨乳だの揉んだの話ばかりなので、女性陣は完全に引いているようだった。

 ご婦人に怒られてしゅんとなる男性陣。どうやらウダツが上がらないヤツらばかりらしい。

 しょうがなく、いつもの真面目なテーマに話しを戻した。

「いやぁ、うちもあんな子がいたら売上が上がるんだけどなぁ」

「うちも」

「うちも」

「いい子なんですよ。梓くんが来たときは全然売れてなくて、毎日ケーキをつぶしてたんすけど、もったいないから私が全部食べるって、目うるうるして言ってくれましたし」

「はん?本当に食ってたのか?」

 会長がいぶかしそうに言う。

「ええ、なんか大食いらしくて、この位なら一人で食べちゃうとか言って、本当に持って帰って食べてましたよ」

「お前んとこ、毎日、結構残ってただろ?」

「ええ、あの袋いっぱいくらい、残ってましたね」

 と言って指し示したのは、スーパーの大きいレジ袋だった。

「はぁ、そんなに!」

 全員がおどろく。

「ありゃ、かなりの量だぞ」

「すげー食うなぁ」

「それで、あの巨乳か」

「いや、そうじゃなくて、なんで太らないんだでしょ。そこは」

 はぁ~という感嘆が漏れる。


「かわいくて、巨乳で、商才があって、大食いか」

 ある意味、最強だな。誰かともなくそんな声がぼそっと聞こえた。

 ・

 ・

「そうだ、いいこと思いついたぞ!」

 会長が虚をついて大声を上げる。

「あいつみたいなのを、沢山あつめるのは大変だろ。だからよ、あの子を商店街のアイドルにして、商店街ごと客引きすんだよ」

「ようするに、ふなっしーだ」

 会長は膝を叩いて言った。

「ふなっしー?」

 全員の頭に?マークがつく。

「ご当地キャラだよ」

「キャラって、着ぐるみじゃなくて生ですよ。ふつうにご当地アイドルじゃないですか」

「いいんだよ、ようはインパクトだ」

 会長は自分のアイデアが周囲に伝わらないことにイラつきながらも、とにかくあの子を使って商店街全体を盛り上げるという趣旨のことを思いつくままに言った。

「でも、そもそも、そんなの梓くんが納得しますかね」

「まかせとけ、おれが説得してやるよ。ねーちゃん、大学生で一人暮らしなんだろ」

「ええ」

「そこを突く」

「はぁ・・・」

 と言うと会長は自信満々に胸を叩いた。

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