真夏の日差し



「やっぱり良い天気!」



外に出れば夏の太陽がさんさんと照りつけている。



「そうだ!参拝もして行かなきゃ」



そう言って沙希は拝殿に向かった。



「あ!お婆ちゃんおはよう!」

「あれあれ。沙希は夏休みなのに早起きだね〜」



そこにいたのは沙希の祖母である叶恵かなえ。彼女は亡くなった祖父に引き継ぎ神社の神主をしている。



「制服に着替えたりして…。まだ夏休みだっていうのに学校に行くのかい?」

「うん!吹奏楽部の練習なの!」

「横笛かい。熱心で偉いね〜」

「今度お婆ちゃんに聞かせられるようたくさん練習するからね」



沙希がそう言って両手で拳を作れば、



「ありがとねぇ。楽しみにしてるよ」



叶恵は嬉しそうに笑った。



「やばい!時間だ!」

「あれあれ、忙しいのねぇ」

「じゃあ行ってくるね!」



沙希はそう言うと手早く参拝を済ませて走って駐車場に向かった。



「遅いじゃないか」

「あはは、ごめんごめん!」



古いクラシックカーの助手席に急いで飛び乗れば、昭仁は笑いながら車を発進させた。



「ねぇ、お父さん。この車は新しくしないの?」

「新しい車なら妃咲が持ってるだろう」

「そうだけど…」



昭仁は趣味が多い。中でもこのクラシックカーには凝っていて、暇な休日は妃咲を連れてドライブに行っている。



「クラシックカーは燃費が悪くて壊れやすいって聞いたから…」

「ははは、だからこそ可愛がりたくなるんじゃないか」

「よくわからない…」

「これがわからないうちはまだまだ子供ということさ」

「何それ」



そんなたわいもない話をしながら中学校に向かう。


沙希の通う双海ふたみ学園は小高い丘の上にある為、螺旋状の長い坂が聳えている。


そのせいもあって夏と冬はスクールバスを利用する生徒が多くなり、もちろん沙希もその一人だ。



「なんでこんな山みたいなところに学校なんて作ったんだろう…」

「風情があっていいじゃないか。それに昔はスクールバスなんて珍しくて盛り上がったくらいだぞ」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんの時はスクールバスなんてなかったって…」



窓の景色を見ながら会話を交わすと、空に何やら布のようなものが浮かんでいたような気がした。



「……あれ?」

「沙希。今日買い物に行ってくるが、何か欲しいものはあるかい?」



けれどそれを再度確認する前に昭仁に質問をされてしまった。気掛かりではありながらも沙希は視線を空から昭仁に移してから、



「ケーキが食べたい!」



昨日テレビでやっていたドキュメント番組を思い出して答えた。



「甘い物が好きだなぁ。

わかった。美味しそうなのを買ってこよう」



そう微笑んでいる昭仁をよそに、沙希はもう一度空を眺めた。



「……気のせいか」



しかし、先程確認した物体は既になくなってしまっていた。



「何か空に浮かんでいるのか?」

「ううん!気のせいだったみたい」



そう言うと沙希は乗り出していた身を戻して深くシートに座り直した。




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