真夏の妖怪音楽隊

くるみ

夏休みの過ごし方



——ピピピピッ ピピピピッ



静かな部屋に鳴るアラームの音。



「……ん」



—ピピピピッ ピピッ…ガチャン



それはベッドから伸びてきた白くて細い腕によって勢い良く遮られた。



「ん、んーっ」



ベッドの上で思い切り伸びをした少女の名前は大神沙希おおがみさき

一頻り体を伸ばし終えるとベッドから立ち上がり部屋のカーテンを思い切り開けた。



「今日もいい天気ー」



夏の眩しい陽射しを身体いっぱいに浴びると、ふと先程自分が止めた時計に目をやった。



「……え?!もう8:00過ぎてる!

ヤバい!寝過ごした!!」



少女は慌てて部屋を飛び出し、



——ドタドタドタドタッ



けたたましい音を響かせながら階段を降りて行った。



——ガチャッ



「お母さん!何で起こしてくれなかったの?!」



階段を降りてリビングの扉を力任せに開けると沙希は開口一番に怒鳴った。

相手はもちろんキッチンに立っている母である妃咲きさきに向かってだ。



「あら、起こしたわよ?お得意のあと十分を3、4回も繰り返したのはどこのお寝坊さんかしらね〜」



妃咲はそう言いながらフライパンに卵を割り落としている。



「もう!これじゃ完全に遅刻よ!」



沙希はそう言い放って洗面所に向かう。



「あ!お父さん、おはよう!

ちょっと洗面台使うから退いてて!」

「うおっ…と」



そこにいた父、昭仁あきひとを蹴散らすと髪に寝起き用のヘアミストをスプレーして櫛とドライヤーを器用に使って髪を梳かし始めた。



「沙希は相変わらずお転婆だな。

今日はまだ夏休みなのに出かけるのか」



恐らく髭を整えていたであろう昭仁が沙希に話しかける。



「今日から吹奏楽部の自主練なの!」



すると沙希は手早く髪を一つに結わいて答えると返事も聞かずに洗面所を後にした。



「全く、落ち着きがないのは妃咲そっくりだ」

「……誰にそっくりなのかしら?」

「き、妃咲…。聞いてたのか」

「たまたま洗濯物が終わったか確認してきたら聞こえたものだから」



そう言って妃咲は洗濯機の中からシャツやズボンなどを取り出した。



「お母さん!お弁当はー?!」



そんな会話をしていると制服姿に変わった沙希が洗面所にやって来た。



「はははっ、まるでマジックだな」

「いやね〜。キッチンに置いてあるわよ。今冷蔵庫から水筒用意するから少し待っててちょうだい」

「早くー!時間ないんだから!」



沙希はその場で足踏みしながらスクールバッグと愛用のフルートの入ったケースを両手に提げている。



「全く。寝坊したのは誰よ…」



呆れながら早足でキッチンへと向かう妃咲。



「しょうがないな。今日は車で送って行ってやろう」



昭仁は沙希に向かって笑みをこぼした。



「本当に?!やったー!お父さん大好き!」



先程洗面所から蹴散らした記憶がまるでないかのように昭仁に抱きつく沙希。



「娘にはとことん甘いんだから」



キッチンからお弁当と水筒を持ってきた妃咲。



「はい。これお弁当!朝のぶんは買ってきたチョココロネとメロンパンを入れておいたから学校で食べなさい」

「お母さんもありがとう!」



沙希は妃咲にも抱きつくと、



「あ!お婆ちゃんにも挨拶してこなきゃ!先に行ってるね!お父さんは荷物車に積んでおいて!」



沙希は両手に持っていたスクールバッグとケースをそのまま廊下に置くと、ローファーを履いて備え付けの等身大の鏡で身だしなみを整えると玄関を飛び出して行った。



「はぁ、嵐のようだわ…」

「いいじゃないか。案外そそっかしいのは君に似たのかもしれないよ」

「昭仁?さっきからお口がすぎるわよ」

「悪い悪い。今日は帰ってきてから瞬も連れて買い物にでも行こうじゃないか」

「あら、お仕事はいいの?」

「昨日から筆が進まなくてね。気分転換さ。留守はまだまだ現役と言い張る神主さんに任せておこう」



そう笑った昭仁は、行ってくるよと車の鍵と沙希の荷物を持って玄関を出て行った。



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