第18話「君の臓物を食べたい・前編」

【ご注意】


暑さをぶっとばせ!夏のホラー企画・第2弾!!です。


 グロいのが苦手な人はここでバックしてください。


 それでは、あとは……







 自己責任で。


◇◇◇




「海くん!もう食べるものないの!!」


目の前の藍が、海に対して悲痛な声をあげていた。


その瞬間!


『うっ!?こんなの初めてだ!!』




―――ググググッーー!!


 海は生まれて初めての、猛烈な空腹を感じた。


「海!吹雪は、ずっと続いているし、もう私たち、本当にダメかも!!」


 いつもは気丈な牛子も涙目で訴えていた。


 海は、ガタガタとひっきりなしに音を立てている小屋の中を見渡した。


『吹雪は、そうとう強いんだな!』


 そして自分の服装や藍たちの服装を見た。


『どうやら今回は、スノボーに来たようだな!!』


 全員がスノボウェアを着ており、足にはスノボブーツを履いていた。


「ごめんね海っち。私が外国の山に行こうって言ったばっかりに」


 風子が言った。


「外国の山?」


 それから風子の話を聞くと、どうやら南半球でのスノボツアーが当たったかで、現在、スキー場にて激しい吹雪にあい、小屋に避難しているという状況にあるのが分かった。


「で、どのくらいここに避難してるんだ?」


「今日で三日よ!」


 そう藍は答えると、続けて説明してくれた。


 四人で吹雪の中、ゆっくりと下山していると小屋を見つけたとのこと。


 吹雪は激しく、スマホもつながらないとのことだった。


「小屋に避難した夜は、チョコとかお菓子を食べたんだよね」


 風子が困った顔をしながら海に言った。


『てことは、丸二日食べてないのか!!』


 海はどうりで、お腹が減ってる訳だと納得した。


「水は?」


「外は雪だらけだから」


 藍の言葉に、そっか!と海は思った。


「海!小屋にガスコンロと鍋があったから、外の雪をとかしてお湯にして飲んでたでしょ?」


 牛子に言われ、そう言えばそうか!という気持ちに海はなった。


 それから二日が経った。


「食べてねーから、トイレにも行かなくなったなあ!」


 海は明るい声を出して冗談を言ってみた。


「「「―――ははは」」」


 みな、顔に薄い笑いを浮かべるだけだった。


 水は、外の雪をとかせば大丈夫だか、もう水だけでは限界だった。


「海っち、とても寒いよお」


 風子がうつろな目で海に言った。


「裸になって、肌と肌を合わせば温かいかも」


 藍が言った。


『もはや、マジでダメかも!!』


 と、藍の言葉に海は思った。


『あまりの寒さと空腹で最期に近づくと、体が逆に暑くなるって聞いた気が!! 』


 肌と肌を合わせて温めあうなんて、この状況下ではもはや無謀と思ったからだ。


「脱ぐと体温が、さらに下がるから、体を寄せ合って温まろう」


 海を中心に藍、牛子、風子がくっついた。


『もはや救助が来なければおしまいだな』


 と、海も半ば覚悟を決めていた。




―――クンクンッ


「はっ!」


 いつの間にか海は眠っていたらしい。




――クンクンッ


『てかなんだ!このいい匂いは!?』


 美味しそうな匂いに、海の目がパッチリと覚めた。


「お前ら、何食べてんだ?」


 見ると藍、牛子、風子の3人が口をモグモグさせていた。


「うん、ちょっと」


 藍がホッペをふくらませながら海に言った。


『てか、なんで俺に内緒で食べてんだよ!?』


 海はムッとした。 


 だから海は、ちょっと怒って言った。


「藍!うんちょっとって、なんだよ?」


 海にそう聞かれ、藍は困った表情をした。


 すると牛子が間に入った。


「海、これだよ」


 牛子はスノボブーツを脱ぐと、さらに靴下を脱ぎ、自分の素足を海に見せた。


「んっ?」


 はじめ、海はそれがどういう状況か分からなかった。


『そういや!人間、初めて見るものについては、認識がしにくく全体像がイメージ出来ないと言われてたっけ?』


 海はそんなことを思い出しながら、改めて牛子の素足を見ていた。


『えっと、足だよな?』


 が、素足の先の赤身の部分を見て、少しずつ脳味噌が理解していった。


「うわっ!指が、指が一本もねーじゃねーか!!」


 牛子の素足には、5本の指全てがなかった。




―――コリッ


――カリカリカリ!


 風子の口から噛み砕く音がした。


「海っち!足の指って、ナベで炒めて食べると、軟骨な感じで美味しいよ!!」


 風子はニッコリしながら海に言った。


『そうか!ナベ焼いた匂いだったのか!!』


 そして風子は、口から白い欠片かけらを、指ではさんで取り出すと海に向けた。


「海っち、私の小指、食べてみる?」


 もの凄く食べたい衝動にかられはしたが、海は我慢した。


「いっ、いやいい」


 海はそう風子に断った。


 それから海にとって、永遠とも感じる時間が流れた。




―――たい


「うっ!」




――いたい


「ぐふっ」




―食いたい


「くっそ!!」


 海の無意識は、自分の指を食べたがった。


 その時。




―――ぎゅるるるる!!


 海の腹が盛大に鳴った。


「くそー!食べてやる!!食べてやるぞ足の指を!!!」


 そう海は言うと、ブーツを脱ぎ、靴下を脱いだのだった。


「このあと、どうすんだ?」


 海は藍たち3人に、どうやって食べたのかを聞いた。


 牛子が答えた。


「海、このナイフで切ったんだよ」


 牛子は大きめのナイフをウエストポーチから取り出した。


「はい」


 そして海に手渡した。


 ズシッとした重さを、海は手の平に感じた。


『やっぱ食ってねーから、力が入んねーんだな』


 海はナイフを持つと、自分の足の指に当てがった。


 もはや、痛みなどは考えてはなく。


 ただ、ただ、ひたすらに、自分の足の指がうまそうだな!と思っていた。




―――ブツンッ


 まずは、海は足の小指を落としてそのまま食べた。


「うっ、うめー!!」


 余りの美味しさに、海が声を上げると、3人はうなずいていた。


 そのあとやはり、お腹がすくので海は結局、残り全部の足の指を焼いて食べたのだった。




「他に食べられるところないかな?」


  海が食べたのを見届けると、ボソリと風子が言った。


「食べても支障がないところよね?」


 と、藍。


『えっ!支障?支障っていったい!?』


 海は二人の言葉に、何か違和感を感じた。


「なあ、支障のないところなんてないだろ?」


 海が言うと牛子が答えた。


「だって、見えるところは食べたくないだろ?」


「えっ!?」


 海は目が点になった。


『てかみんな、食べるの前提になってないか!?』


 海の背中を寒いものが走り、海はブルッとなった。


 その時、牛子が 長く真っ直ぐな黒髪をかきあげ、耳にかけた。


「「あっ!」」


 藍と風子の声が重なった。




―――サクンッ


――ジューッ!


 それから耳を切り落とすと、焼いて食べた。


 足の指は軟骨味だったが、耳はギョーザ味の気がした。


「醤油あったらサイコーだな!!」


 海が言うと、3人のノドが鳴った。


「助かったら、いっぱい食べたーい!!」


 藍が言った。


 ふと海は、女の子たちを見て思った。


『女の子は髪が長いからいいよな! 』


 女の子たちは髪で耳を切ったあとを隠せていた。


 海は耳無し芳一ほういちみたいなっていたので、ニット帽を深くかぶって、見えないようにした。




「なんか、歩き方がハイヒール履いたみたいだよね!」


 藍の明るい声が小屋の中に広がった。


 藍だけでなく、牛子や風子も明るさを取り戻していた。


 あれからやはり、お腹が減るので、もっと食べるところはないかと考えた。


 そして、あとで義肢ぎしで補えるだろうということで、足首を切断して食べることにした。


「うぐぐぐ!」


 海がまず、自分の足首で試したが、ナイフで切るのは大変だった。


「ぐへー!疲れた。関節に刃を入れるのがめちゃくちゃ大変だよ!!他に道具ないかな!?」


 すると藍が何かを見つけて来た。


「これなんかどう?」


 藍が持って来たのは、ノコギリだった。


「よし!これでスパッと切ってしまおう」


 海は両足首をノコギリで切り落とした。


 そして焼いてみた。




―――ジューッ


――ゴクリッ


「やべっ!口の中にツバがたまる!!」


 見ている3人も同じだった。


「やっべ!ウマイ。手羽先みたいだ!!」


 その言葉に3人も足首を切断した。


「まさか足首って、手羽先みたいな味だったなんてビックリね!」


 藍はとても嬉しそうだ。


 その明るい声を海は聞いて、食事って人間にとって基本的なことで、物凄く大切なんだなあ!と思った。


 小屋の中に、お腹が満足した女の子3人の明るい声が広がる。


 食事が心までむしばんでいく怖さを、海はそこはかとなく感じていたのだった。


つづく




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