第4話

 その晩、夢を見た。


 春のぽかぽかとした中央小学校側の川辺、遊歩道だった。小学生の成隆と源太、そして栄が帰宅している途中だった。まだ小さな成隆の手を源太が引き、その少し前を大手を振って栄が歩いている。道端には黄色いタンポポが風に揺れ、川縁の桜は同じく心地よい風に揺らされ散り、桜吹雪となっていた。



「はやく、はやくかえろうぜっ。ばあちゃんがおだんごつくってくれるって」

「うんっ」


 前を歩く栄の足取りは浮かれ軽やかで。源太も、ふんふんと鼻歌交じりでぴょこぴょこと歩くものだから、成隆まで嬉しくなって、つないだ手をぐるんぐるんと振り回す。


「いたた、いたっ、なるたか、いたいっ!」

「ふふふっ」

「なるるも元気になってよかったな♪」

「だから、まわすなよぉ!」


 国道をくぐったところで、仁王立ちで待っている少年がいた。夢の中だからわかる。明らかに、自分たちを待っていたのだ。


「さめしまくん」

「さめしまっ」


 匠と、小夜子だった。


「おそいっ!」


 匠はイライラしているようだった。開口一番怒鳴りつける。


「そんなこといわれても……」

「まあいーや、いまはそんなことゆってる場合じゃないからな」


 中学年の匠が、高学年の栄の体をどんと突き飛ばす。バランスを崩して、栄は小夜子の方へ転んでしまう。


「はやく行け!」

「えっ?」


 取り残された成隆は、源太の背中に隠れるように下がる。源太がぎゅっとつないだ手の力を込めたのがわかった。だが、匠は成隆たちをいじめるために待っていたわけではないようだ。


「栄は小夜子と先に行っててくれ」

「えっ? うん、わかった」


 戸惑いながらも、栄は小夜子を促して家の方に向かう。その視線が、源太や成隆の後ろに注がれていたのがわかり、成隆はいけないとわかっていて恐々と後ろを振り返った。

 大蛇が、国道の橋に巻き付いていた。


「わああああ!」

「えっ?」


 成隆の叫びに、源太も振り返り、あまりの恐怖に固まってしまった。成隆も同様に恐怖に支配され、動けなくなってしまう。くねくねと橋に巻き付いた蛇は、あろうことか口から炎を吐き出した。

 ぼわんとした熱風に包まれ、桜並木や小学校が燃え始めた。きれいな青い空が炎に包まれ赤く染まった。


「何やってんだ! 成隆! 早く」


 遠くで栄の声が聞こえたような気がした。姿はもはや見えなかった。


「成隆!」


 源太の手に急に引っ張られ、成隆は盛大にすっころんでしまった。


「いたっ……」

「成隆」


 切羽詰まった源太の声で目を開けると、そこは国道沿いの遊歩道ではなかった。蛇の炎と熱とはそのままだったが、都湯の前であった。一気にワープでもしてきたのかと一瞬混乱したが、どうやら違ったようだ。


「良かった、目が覚めた……」


 大きな源太に抱きかかえられて、外まで出てきていた。

 源太の背中越しに見た都湯が、燃えていた。

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