第10話

 その後。いつものように源太と小夜子が店番をしているところへ、成隆と匠が二人戻ってきた。匠が、全て成隆に話したことを小夜子に告げると。事情を知った源太も成隆と同様に大泣きした。そして、成隆が考えていたことと同じことを告げた。


「店番のことはバイトでもやとってなんとかするから。中野は子どものことだけ考えてやってな?」


 ぼろぼろと泣きながら言うものだから、うまく聞き取れなかったものの。成隆は同じことを源太が思ってくれたことがとても嬉しかった。優しい源太で良かったと思う。

 匠と小夜子が帰っていった後、源太と成隆は風呂に入ることにした。今日は源太も会合があったから、営業前に風呂に入れなかった。

 二人きりで風呂に入っていると、いつもあの頃のことを思い出す。


「なぁ成隆、お前さ、でっかくなったよなぁ」

「な、どこを見てるんだよ」


 洗い場に並んで腰掛け身体を洗っていると、ニヤニヤしながら全身をくまなく見られ。いたたまれないような恥ずかしいような、変な気分になる。


「そういえばお前、俺のちんこを見て小さいってからかったよな」

「今じゃ俺よりでっかいよなぁ?」

「うっさい……っぃああっ?」


 言いながら源太があの頃のようにぎゅっと握ってくる。思わず悲鳴のような声があがる。


「どこ触ってんだ!」

「いや、どんくらいでかいのか確かめてみようと思って。それにさ、胸板も厚くなった。細い割に、筋肉付いてるし、格好良くなったな」


 石鹸泡の残った手で、そのまままっすぐ上に手が上がってくる。手の動きと同じスピードで、体の中から熱が駆け上がってくる。それが源太の手によるものだと、数刻遅れて気が付く。

 毎晩我慢しているあの感覚が、今、源太の目の前なのに奥底から沸き上がってくる。


「げ……源太っ」

「ん?」


 呼ぶ声に欲情が混じっていることに、さすがの源太も気が付いた。艶やかな声は、源太の頬を赤くさせた。それが更に成隆を煽っていることを、源太はわかっていない。


「な、俺も……触って良い?」


 源太の返事を待たずに、成隆は源太の身体に手を伸ばした。我慢ができなかった。もし拒絶されたとしても止められなかったが、彼にとって幸いなことに、源太は成隆の手の進行を許した。

 下半身に手を伸ばす。成隆のものよりもやや小降りではあるものの、既に硬さを持っていて、もっともっと、興奮させてみたいと赴くままに動かす。


(ヤバい……止まらない)


 源太のモノがゆるゆると天を向き始めた。さすがにこの行為が何の意味を持っているのか、成隆も源太も知らない程子どもではなかった。だが、焦っているのは成隆ばかりのようで、己が硬さを持っていても、源太はニヤニヤ笑って成隆に触ってくる。悪ふざけの延長のようだ。それが余計に成隆を焦らせる。


(……いくら源太が楽しそうだからって、こんなことまで……!)


 源太の息が時折切なそうに漏れることを免罪符に、成隆は手を進めていった。風呂の熱気だけではないくらいに頬が紅潮して、それを見る度に成隆の心臓が跳ねる。気持ちいいと思ってくれているらしい。もっともっと、気持ちよくさせたいと、成隆は源太のモノの裏筋あたりをやわやわと動かしていく。


「っ、あぁっ」


 源太が思わず声を漏らした。


「気持ちいいんだ?」

「う、んっ……」


 いつの間にか、源太の手は成隆のモノを握ったまま止まっている。頬を紅潮させたまま、快感に流されてしまわないよう耐えている。うっすらと目を開けて成隆を見ていた源太と目が会った。

 自分の中がどくりと脈打った。毎晩顔を出すあの狂ったような感情が堰を切ったように溢れ出し、成隆を支配した。出したい、出したい、出したい、源太の中に出したい……!


「源太、出したい」

「んっ……はいっ?」


 その成隆の言葉に、源太が我に返ったらしい。素っ頓狂な言葉を漏らすが、成隆の勢いは止まらなかった。源太の腰に手を伸ばすと、腰が逃げて風呂椅子から転げ落ちそうになる、そこをすかさず抱き止めると、椅子から引きずり下ろしタイルの床だというのに覆い被さる。


「ごめ」


 源太の足と足の間に入り込み、首筋に噛みつく。手で乳首を転がすように触ると、そこも芯を持ち始めた。反対の手は腰から双丘を滑り、完全に勃ち上がったそこへ刺激を送り続ける。


「な、るたかっ……」


 成隆の手の中で、どくりと源太が脈打って、白いモノを吐き出した。だが成隆はさらに手を動かし続ける。源太の吐き出した液も手伝ってかさらにぬめりが良くなったそこはもう一度硬さを取り戻し立ち上がり始める。


「素股、わかるよね?」

「んっ」


 タイル床の上で、源太を四つん這いにさせる。顔は見えなかったが、源太がふふっと笑ったのがわかった。


「なんか、成隆の口からエロい言葉が聞けるとは思わなかった。どこで覚えたの」

「……どこでもいいだろ」


 耳元でささやくと、源太の身体がぴくりと跳ねた。成隆が後ろ側から源太のモノを手にすると、硬くなっているのがわかって、彼も興奮しているのだと思うと余計に煽られる。


「こっちに集中して?」

「なるたかぁ……」


 切なそうな声。荒く短い息。もう止まらない。源太の身体を支えながら、成隆は自身を源太にこすりつける。腿と腿との間に差し入れた体勢のまま源太の薄桃色の身体を見やると、本当にセックスしているみたいで、その光景に頭の中が真っ白になる。ほどよく筋肉でしまった足、柔らかい内側、そのギャップが成隆のモノを絡めとる。動かす度に今まで味わったこともなかった快感が襲ってくる。


 その一方で、妙に頭の片隅が冷静で。


 本当にいいのか? 親友だったのにこんなことしていいのか? 疑問が頭をかすめるが、もうもはや、その背徳感すら快感に変わる要素の一つでしかない。


「出すよ?」

「んっ」


 返事なのか吐息なのかわからないその響きを肯定と捉えて、動きを早める。後ろ側の筋を執拗に触ると、余程良かったのか、背中を震わせて白濁を吐き出す。その瞬間、源太の身体に力が入り、成隆を圧迫し、彼もまた、思うがままに自らを解放させた。

 ぱた、ぱたた……

 二回出した源太は力なくして床にへばりつく。肩が上下しているだけで身体が動かない。


 しばらくそのまま横たわっていた源太だったが、しばらくすると。その肩が激しく震えだした。傷付けてしまったかもしれないと成隆は一瞬おろおろと助けを求め周囲を見回したが(もちろん誰かいるわけでもなかったが)、怖くて震えているわけではなく、笑っているようだ。その証拠にくっくっと笑う息が漏れている。嫌われたわけではなさそうとわかり、成隆はほっと胸をなで下ろした。

 互いに触って、出しただけの稚拙な行為ではあったが。確かにこの夜、何かが変わった。


 この時はまだ、そのことに二人とも気付いてはいなかったが。

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