第7話
銭湯の住居部分は2DKである。二部屋あるうちの四畳半を都、六畳の源太の部屋に成隆が居候させてもらっている。遅い時間、都はもう寝ているので、静かに布団を敷き、横になる。
成隆が使っている布団は、唯一自分の貯金で買ったものである。襖を開けると昔栄が使っていた布団があることはあるが、なんだか使うと源太の中にある寂しい気持ちを掘り起こしてしまうような気がして、これだけは自分で買った。
電気を消して横になると、源太は疲れているのだろう、すぐに寝息をたてる。布団の中に潜り込んで、小さな体を丸めて眠る姿は、見えない何かから身を守っているように見えて、それを見る度に成隆の心臓が音を立てて軋んだ。
もっと、もっと。近付いて、源太の全てを知りたい。悩んでいることも、困らせている原因も、栄や皆が居なくなって悲しんでいる心も。全部を知って、痛みを和らげることができたなら。
あの頃自分がもらった大切な宝物と同等のものを、返すことができるだろうか――
小さく丸められた指に触る。折り畳まれた膝を撫でる。源太は起きない。いつも丸く開かれている小さな瞳は閉じられたまま。意外と長い睫毛。
(う……きた!)
その瞬間。奥底が痛いくらい縮こまり。何かに押し上げられるかのように息が上がる。
(は、ぁあ……)
成隆の中から、成隆とは別の意識が沸き上がり、身体の温度を上げていく。それは、湯を通り越してマグマが噴火したかのようだ。
(出したい出したいっ……!)
吐息が灼けるように熱い。何か別の意志が、成隆の自我を食い破って出てきたいと主張している。もう一人の成隆を、成隆自身が必死になってくい止める。何故かはわからなかったが、もう一人の自分を、解放してはいけないような気がした。
成隆は源太に背を向け、自らの手の甲に噛みつく。歯が皮膚に突き刺さる痛みが脳内に届く頃、もう一人の自分は形を潜めた。
心臓だけが今もなお、うるさいくらいに鼓動を打ち続けている。
ここのところ毎晩だった。これは、何かの病気なのだろうか。自己嫌悪にも似た暗い気持ちに見ない振りをして、成隆は布団に潜り込んだ。
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