第4話
「とにかく。塚本くんと同じ高校だった子に、声かけてみるね。んで、正確な情報が集まったら、会いに行くかどうか決めましょ」
今すぐに会いに行けないことがわかり。しかも小夜子の最後の言葉が、不安に拍車をかける。だが。会ってどうなるというのか。土壇場で勇気が出ないまま、半年が経とうとしている。
本当に会いたいと思うのなら、あの春の日、そのまま電車に飛び乗ってしまえば良かったのだ。匠と再会した出来事は、言い訳にしか過ぎない。会ったら迷惑ではないのか。忘れられていたらどうしよう。その不安が足かせとなって、毎日駅を利用するのに、江波行きの電車に乗れないでいる。
でも。源太の身に何か起こったのなら?
このまま一生会えなかったら?
もしそんなことになったら、果たして平常心を保てるのか?
自問自答を繰り返して、最悪の事態と自分の勇気のなさがごちゃまぜになって、泣きたくなる。
ハンバーガーショップの前で二人と別れて、小さな商店街の小さな道路をとぼとぼと帰路についても。成隆の心は晴れることはなかった。その次の日になっても。晴れることはなかった。
不安な気持ちと現実とをかき消すように、成隆は一心不乱に仕事に打ち込んだ。半年の試用期間を経て配属されたのは、鉄塔の設計の部署だった。ちょうど忙しくなり始めた頃の転属で、次から次へとこなさなければいけない仕事の量に忙殺され、成隆の希望通り(かどうかは微妙だったが)、それどころではなくなった。
「鮫島くん!」
匠と小夜子に会った夜のことを忘れた頃に再び電話が鳴った。
残業中だったが、抜け出して電話を見る。ディスプレイに浮かんだ小夜子の名前で、成隆は過ぎた時間と源太のこととを思い出した。
「早く、行ってあげて!」
小夜子の声が焦っていて。成隆の心臓が再び縮む。
「えっ?」
「金口の予感当たってた! あの家で亡くなった人がいるみたい!」
それが誰かまでは小夜子の友人の情報ではわからなかったようだ。だが、成隆の脳裏を真っ白にするには十分な情報量だった。あの家族には助けられた。誰一人欠けても、あの家の空気は生まれなかった。みんなが、最後まで成隆に良くしてくれた。
「……ありがとう、中野さん。行ってみる」
いても経ってもいられなかった。残っていた仕事は明日でも何とか間に合うよう算段し放置する。普段真面目に働く成隆の慌てっぷりに、先輩から事情を聞かれた。友人が亡くなったかも知れないと話すと、早く行けと逆に怒られた。
「すみません、ありがとうございます……!」
あれだけ怖くて乗れなかった、市内電車に乗り込んだ。
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