承前
都湯
鮫島と綾野は空き地の前に立っていた。
結構な広さだったが、そこは申し訳程度に草がちょろちょろと生えているだけで、何もなかった。道路との境界線には有刺鉄線でできた囲いがあって、中にはいることはできなかった。
売却予定地、と書かれた看板が色あせている。買い手がつかない土地のようだった。
「ねぇ、成パパ、なんでこんなところで立ち止まるのよ。この後に及んでまだ行きたくないとか言うんじゃないでしょうね」
「ん? ああ、そうか。綾野は知らないか」
「え?」
「昔、ここに住んでたんだよ」
「ええっ?」
綾野は鮫島の言葉を反芻し記憶をたどってみるも、何も思い出すことはできなかった。
「綾野も、ここで育ったようなものなんだけど……そうか、覚えてないか」
鮫島は、懐かしむように目を細める。
「まだ、小さかったもんなぁ。そうか、あの小さな子が、もう嫁にいくのか……」
脳裏に浮かぶのは、よちよちと歩く小さな娘。あるくとぴょこんぴょこんと音の出るピンクのサンダルがお気に入りで、いつも小さな庭を転げ回ってはぴょこぴょこいわせていた。
あれから、もう、二十年も経つのか。
信じられなかった――
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