第8話

「つかもとくん?」

「ひとり? いっしょにかえろ?」


 有無をいわさずに、源太は成隆の手を取る。握った手は柔らかくて、成隆はほっと胸をなで下ろした。引っ張る手の強さも同じく柔らかくて敵意を感じられない。これなら、匠たちに出くわしても、なんとかなるだろう。


「ばあちゃんがさ、よかったら今日もなるたかつれてこいってさ。うちくる?」

「いいの?」

「うんっ。ついでにおれともあそんでよ」


 元気良くうなずいた源太を見て、成隆は口元をほころばせる。


「あっ。わらったっ!」

「えっ?」

「なるたか、はじめてわらった」

「そうかな? はじめて?」

「そうだよ、よかった、おれといて楽しくないのかなって思ってた」


 そう言った源太も満面の笑みになった。

 本川の河川敷は、緑化整備されていて、昔ながらの石の雁木の風景がうまく解け合っていた。川縁のコンクリートで整備された道を、二人は手をつないで帰った。


「あっ、さめしまだっ」


 遠くから匠の声がした。追いついてしまったらしい。


「石なげろっ!」

「なるたか、にげるぞっ!」


 源太がつないだままの成隆の手を引いて走り出した。さすがは俊足の源太、匠や信二が空き缶を投げつけてくるが、振り切った。

 かん、かん、からら……

 遠くで空き缶が転がる音がした。住吉橋をくぐるようにつながった道を、二人は一目散に走り続ける。


「はぁ、はぁ、今日はもうおれんちにかえろう」

「うん……」


 二人は源太の家へと走った。

 匠とのことを、かばってくれたのは、源太が初めてだった。そのことが、今日の国語の時間のことを、緩和してくれる。嬉しくて、涙が出そうだった。


「おかえり、源太、なるちゃん。お風呂わいてるから、入っといで」


 裏の土間で作業をしていた祖母が二人に気付いて、声をかけた。


「ただいまばあちゃん」

「おじゃまします」

「いこうぜ、なるたかっ」

「うん」


 土間の横の階段から、上の部屋に行く。


「あら、お帰り二人とも。成隆くん用のパンツ買ってあるんよ。使ってね」


 二人が帰ってきたのに気がついた母が、成隆に下着やらタオルやらを渡す。


「ほら、早く入っちゃいなさい。兄ちゃんはもう入ったよ」

「はーい!」

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