四欠片目
9月25日…
父親から電話で起こされた。
『はい。犬塚です。あぁ、父ちゃん、なに。』
『母ちゃんが…容態が急変した。』
祖母の明子が、突如危篤に入った。
23日の夕方には、意識が朦朧としながらも、笑顔で悠と無言の会話をして居た。
しかし、看病をしつつも、時間が迫っており、帰宅を強いることになった時の会話を思い出す。
『じゃ、帰るな。また、来週にでも、顔を出します。早く退院して、お好み焼き、食べましょう。』
弱くなった体を必死で支えながらもゆっくり頷いた明子は、辛うじて悠に言った。
『ありがとうなぁ…』
何を突然。と思いながらも頷き、後にした。
それが、最期の会話になった。
悠と家族が駆け付けたが、綺麗な寝顔でベッドに居た。
そっと触れると、いつもの温もりはもう無かった。
『…………お疲れ様でした。ばば。』
悠の父親は座り込みそっと呟いた。
家族や親族はお化粧を施し、生前と変わらぬ美しさに仕上げた。
既に社長に連絡を取っていたのか、順番は早かった。
納棺は以前と同じく大勢でと思ったが、度重なるアクシデントがあり、悠と悠の家族しかおらず、静かに納棺した。
旅の支度をする際に、家族が泣いている間を見計らい、悠は死に化粧を施し、更に生前と見間違えるような仕上がりになった。
病院からの荷物のなかに、何か買い物袋があった。
不信に思った悠の父親は中を出すと、お好み焼きの材料が。
『退院して、お好み焼きを作りたかったんやな…』
と、呟き、泣き出した。
悠は、あの花火大会のお好み焼きは、最期の思い出になり、最期の晩餐となったのではないか。
そう心で呟きながら顔を伏せた。
祖父の劉の時と同じく葬儀の全てを終え、気を張っていた。
その葬儀はとても一般主婦の葬儀とは思えない美しい会場となり、それもまた、山寺社長のサービスであり、感謝の形だった。
一通り事なきを終え、悠は短時間で二人の担当をし、悲しみとの格闘をした。
一ヶ月もしないうちに、二人の大事な人を亡くした喪失感から、終えた後の悠は今までに隠していた感情を爆発させた。
家に帰り、大泣きをした。
23年間、当然のように居た二人は突如として居なくなったことにより、遺族の気持ちを深く理解した。
祖父母には感謝と悲しみの感情が入り雑じり冷静な表情は消えていた。
この数年、全く泣かず酷い目に遭っても何も感じなかった悠は、その時だけは、礼服を纏いながらもグシャグシャになるくらい、泣いてしまっていた。
二つの遺骨の前で呆然としながら、一日は動けなくなったが、突然お好み焼きが食べたくなり、近くの店に行き、ふらふらとした足取りで外食をした。
一人寂しく食べていたら、ふわっと、前に座り込んだ人影に、悠は何だ?と前を向くと、そこには山寺社長が居た。
『犬塚…今回は、合格だ。立派だった。これからも、よろしくな。』
社長は普段言わないことを振り掛けた。
挙動不審になりながらも、そっと微笑み、その日は社長と共に、思い出のお好み焼きを食べた。
それから、24歳になった彼は、今度は誰にも隠さず葬儀屋として日々、人々を送り出している。
二人の遺髪入れのペンダントを首に下げながら。
納棺師の孫とお好み焼き 亞弖夢 @yamiyugiatem00
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