三欠片目
9月5日…
家族、親族や友人らは、扶養社という名の葬儀屋のセレモニーホールに集まり、豪勢で美しい祭壇に、一同は驚愕した。
『凄いねぇ。じじが、喜ぶね。でも誰が手配したんや。』
『私は手配してへんよ。看護師さんがもう、葬儀屋さんは全てやってるって聞いて…』
皆が皆、顔を見合せ首を傾げた。
不安になるのもその筈。
その祭壇は、恐らく葬儀費用の数十倍の額になる大きさと美しさ。
有名人と同等の物を使用しており、一般からしたら見ることが出来ないものばかりだった。
『では、会式のお時間が来ました。お通夜に賛同していただき、感謝いたします。』
【!?!?!?】
家族と親族、友人らは目を疑った。
そこには、礼服を纏い直立不動で案内を務める悠の姿があった。
『悠………え、お前、夜の仕事の人間じゃ…?』
『………この会場と一式は僕の提案と僕の名義。そして、会社の方針にしたがい、故人様の遺言を遂行しています。生前、犬塚劉様は、孫である僕に、納棺、葬儀をしてほしい。直接の申し出がありましたので。』
『あぁ、なるほどやぁ。せやから、安心した顔しとったんやな、お父ちゃんは。』
聞き覚えのある優しい声が後ろから聞こえ、振り返ると、車イスに乗った、祖母の明子が居た。
『ゆうくんが、何処と無く父ちゃんに似とったんよ…だから、こういうお仕事に就いていたら、顔つきも似てくるんやな…』
明子の言葉をそっと受け入れたように一礼をし、会場に入った。
家族と親族のよどめきを気にも止めず進行を続けた。
息子である悠の父親は、優しい眼差しで涙を流しながら悠を見つめていた。
納棺、葬儀、そしてどこで覚えたのか、悠は火葬、収骨まで全て綺麗にこなした。
社長は優しい顔で、どこか誇らしげだった。
『収骨は完了しました。お顔を整えましたのでご確認下さい。』
遺骨の上に顔の骨が綺麗に並べられ、祖母の明子に確認を促した。
そこで一つの大きな涙を溢し、明子は悠にか細い声で言った。
『ありがとうございました…』
その後ろに居た悠の家族や親族は悠にそっとお辞儀をした。
蓋を閉じ、箱に入れ、終了させた。
『お疲れ様。犬塚。喪主さんは?』
『父が今、代理をやっています。祖母は、病室に戻りました。』
『そか。』
社長は費用の半分を負担してやると書き換えた請求書を悠に渡し、車で去っていった。
祖父母の家に帰ると、親族一同皆で話をして居た。
あまり人との繋がりが苦手な悠はそっと二階に上がり、本を読んで、その日は終わった。
悠はふと病院に帰る祖母の姿を思い出し、心で呟いた
『恋人を亡くした女の子のようだった…』
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