二欠片目

7月29日…



『なぁ、ゆうくん。』


『はい。』


『今日、花火大会やったな。お好み焼き…食べたいんや…』



これまで、癌が悪化し、全く物を食べなかった祖母の明子は、家の縁側に座り込み頼んできた。


食欲が出た。そう確信した悠は、無言で頷いた。



夕方6時、悠は一人で花火大会の現場に行き、お好み焼きを探した。

屋台が並び、賑わっていた。







ドカン!






大きな音に誘われ空を見つめると花火が打ち上げれた。


今まで花火は綺麗だと感じなかったが、その日は初めて


花火が綺麗だと感じた。



お好み焼きを買い、家路に着くと、明子は笑顔で出迎えた。


『おおきにな。食べたかったんよ。今年も見たかったけど、体が上手く動かなくてな。』


『写真、撮りました。』


スマホで撮った花火を明子に見せると


『あぁ…お父ちゃんにも見せたかったなぁ…』


夫である劉の事を気にかけるように呟いた言葉は、悠にはうっすら悲しみが含まれたように感じ取れた。


『二人とも、来年には見れます。ですからゆっくり、病気を治しましょう。』


『………せやな。』



そう約束を交わしながら二人は花火の音しか鳴らない家で静かに温くなったお好み焼きを食べた。




8月28日…


相変わらず、家族には黙ったまま納棺と葬儀の両立をし、慌ただしい生活を送っていた。


何か忘れている………


だがそんな暇はない。気にしていられなかった。



プルルル



普段は鳴らないスマホが鳴る。


疑問に思いながらも取る


『はい。犬塚です。』


『あぁ、弦病院の鈴木です。ご無沙汰しております。あの、お話がありますので、今からお越し願いますか?』


胸騒ぎがし、山寺社長にそっと小声で言った


『すみません、病院から呼び出しが…葬儀の最中なのですが…』


『行きなさい。』


何かを悟ったように言う社長の目に少し恐怖を感じながらも頷き、電車で病院に向かった。



病室のトイレで私服に着替え、病室に行くと、普段会わない親族や、同じく呼び出しを受けた悠の家族が居た。


真ん中には、数日前まで立っていた祖父の姿が。

目が開き、呼吸器を付けていた。


その衝撃に、普段物に動じない彼も動揺した。

たった一ヶ月でこんなに痩せるのか、人は。


今まで色んなご遺体を扱っていても、生者のことは無知同然ゆえに、困惑した。



カラカラカラカラ


車イスの音がした。その方向を見ると、同じ病室に入院していた祖母の明子の姿が。


悲しげにしながらも一言を劉に呟いた



『あんた、皆来ちょるよ。ほら、しっかりしぃや。』



しかし無言だった。

祖父の体は弱り始めていたのは、明白だった。


夜通し看病したが、体に触れた途端、馴染みのある感覚に、悠は眉をそっと下げた。


容態は安定しているが…不安が続いた。




8月31日…


悠は外に行き、久々に家族と話していた。


『あんた、昼間何してるの?夜の仕事をしてるなら、昼間くらい家に来たらどうね。』


そっと首を横に振る。


ブーブー


横にいた姉の携帯が鳴る。



『はい。え!!はい!今いきます!悠くん、父ちゃん、母ちゃん、じじの容態が!』


家族全員大慌てで病室に向かった。

しかし、悠だけはどこか冷静だった。

覚悟をしていたからだ。



現場に着くと、親族は泣いていた。

祖母も笑顔ながらも泣いていた。



『………ほら、じじ、笑っとるわ。やっと痛みから解放されたんやな。』


そこには、静かに微笑みながら眠った祖父の体があった。


姉は泣き、父親は『そか、お疲れ様やな、ありがとうな、父ちゃん…』と泣きながら崩れた。


悠は冷静ではあれど、泣くのを堪え、スマホを片手に外に出た。


『社長………ご臨終しました………僕の名義で…手配をお願いします。』


『これで、家族に、お前さんが葬儀屋だと言うこと、バレてしまうぞ。いいのかい。』


『祖父の遺言を遂行するまでです。問題ありません。』



悠の目はいつの間にか仕事場での顔付きになっていた。


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