納棺師の孫とお好み焼き
亞弖夢
一欠片目
青白くなった一つの顔を綺麗にし、棺桶に納め、送り出す。
一人の納棺師犬塚悠はまだ23歳。
彼のお客様はまだ22歳だった。
生前よりも美しく仕上げたとき、お客様の顔は緩くなり、一言を彼に呟いた。
『ありがとうございます』
その言葉を…もう19歳の時から原動力にしてきた。
幼少の頃、サイコパスと呼ばれるほど奇怪な少女だった。
警察官だった犬塚劉の元を勝手に付いていき、僅か5歳にしてご遺体の虜になった。
虐めもあり、今も変わらず人との交流が上手く行かず話が出来ないままだが、
19の時、祖父の知り合いであり友であり、葬儀屋と納棺師である山寺社長に見込まれ入社した。
しかし、仕事柄引け目を感じており、23の時にたった2ヶ月だが夜の仕事をして誤魔化していた。家族には夜の仕事をしているダメな息子と…
彼は、葬儀も納棺をバカにされるくらいならばと、我慢していた。
ある日、悠は祖父の劉に呼ばれ、病院に足を運んだ。
祖母の明子が倒れたとの知らせで。
そのときは、両親は働きに出ており、姉は仕事中であり、手が空いていたのは彼女のみだった。
『じじ、お待たせしました。どうしたんだい…』
『…わしよりも、ずっと元気なばばが…倒れた。癌だそうだ…わしの方が先に逝くと思ったのにな』
『…縁起でもないことを言わないでください。病だとしても、今の医療は発展しております。それに…じじも、既に透析を行っていて、体力にも限界が……もう休んでください。看病は僕がやりますから。』
静かに劉は頷き、威厳の塊だった面影すら無いほど、虚しさを思わせながら帰っていた。
その背中は、まるで、恋人を心配する若い青年を思わせる風貌にも思えた。
『ばば、大丈夫ですか?』
『ゆうくん。悪いね。ご両親には言わんといてな。私はまだまだ元気やさかい。お前さんだけでも理解しといてな。じじ、私がおらんと、なーんも出来ひんから。』
『はい。承知してます…』
いつもの笑顔が不安を混ぜたかのような感覚に、悠は近いうち、本来の自分を見せなくてはならないのではないかと、感じ取ってしまった。
6月28日…
祖母の明子が入院し、回復も早かった為、一ヶ月で帰宅が出来た。
しかし、薬の副作用により、いつも出来ていたことが出来なくなっていた。
『悠くん、夜の仕事は、行かんでええんか?』
『えぇ、貯金はありますので、看病に時間を。』
『お前さん、確かカードゲームが好きやったんな…教えてくれへんか。』
悠は、困惑しながらも一呼吸を入れ、承諾を無言で示すように頷いた。
徐々に看病の甲斐もあり少しずつ動けるようにはなったが、祖父の劉も同時期に入院をした。
悠は、一人で病院に出向き、医師に残酷を突きつけられた。
『犬塚さんは、もう、良くなりません。体も衰退化しており、採血も透析も出来ません。』
悠の心の中に、ふと、祖母を心配し、俯く祖父の背中を思い出し、己の死期を察して居たのを思い出したのか、そっと頷いた。
『これからは…祖父母の容態を…監視か。』
その日を境に夜の仕事をやめた。
もう恥ずかしいことはしたくない。
話も出来ない自分が夜での会話が出来るはずがない。
しかし、それもまた、家族には一切言わなかった。
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