とあるスーパーの精虫売り場 土用の丑の日編

「いらっしゃいませー! 本日は土用の丑の日! ウナギはもう絶滅しちゃったけど、うのつく虫はお買い得だよ! 目玉商品はウスバカゲロウ! 安全安心の国産だよ! いらっしゃい!」

「ちょっと店員さん」

「はい、なんでしょう?」

「この虫、何て名前なの?」

「これは……えっと、テントウムシの一種ですね。ああでも待ってください。丑の日のシールが貼ってあるってことは……あぁわかりました。ウンモンテントウですよ」

「ウンモンねぇ。普通のテントウムシみたいに食べられるの?」

「えぇ、かき揚げがおすすめです。あ、ご購入ありがとうございました! さぁいらっしゃいませ! 対象商品ならポイント十倍ですよ!」

「店員さん、探してるものがあるんだけど」

「はい?」

「ウシガエルってどこに売ってるの? ここにはないの?」

「カエルの類なら鮮魚コーナーですよ」

「ああそうなの。いつも行ってるスーパーだと精虫コーナーに置いてるんだけど」

「お店によって扱いがまちまちですよね、は虫類って」

「じゃあカエルのかば焼きのたれもそっちかしら」

「おそらくは。そこになければソース売り場を見てみてください」

「ありがとう」

「ありがとうございます。さぁいらっしゃいませ! 国産のゴキブリも入ったよ! ハラル認証付きの商品もありますよ、そちらの外人さん! あ、イスラムじゃない? こりゃ失礼を」

「ちょっと」

「はい、お客さん?」

「このトンボもうがつくの?」

「えぇ、これは……ウスバキトンボという種類ですね。羽が薄くて透き通るようでしょう? 天ぷらにしたらおいしいしキレイですよ」

「うーん……」

「何か気になる点でも?」

「いや、このトンボが本当にウスバキなんちゃらってやつなのかわからなくて……ほら、この前ニュースでやってたでしょ? 食品偽造のやつ。モンキチョウを脱色してモンシロチョウだって偽って売ってたって」

「あーありましたね。でもこれは大丈夫ですよ。羽を黄色から白色にはできても透明にはできませんし」

「これ国産?」

「えー、韓国産ですね」

「韓国かぁ。国産ないの?」

「申し訳ありません。国産は数が少ないみたいで、入ってこないんですよ」

「ふぅん、じゃあいいわ。他をあたりましょう」

「ありがとうございましたー……さぁいらっしゃいませー、珍味のウシカメムシもお買い得! かき揚げがおいしいよー。あ、店長」

「よう、売れてるか?」

「まずまずですかね」

「上層部がうのつく虫も売り出せって言ったときはどうしようかと思ったけど、案外探せばあるもんだよな。うのつく虫」

「ウスバカゲロウ、ウスバキトンボ、ウンモンテントウ、ウシカメムシ……あとはウスバカマキリ、ウスバカミキリ、ウスバシロチョウ」

「羽が薄ければいいのか、とりあえずは」

「わかりやすいネーミングでいいですね」

「ところで君、ウシガエルのかば焼きの予約が取れてないだろう? 困るなぁ、前年比百二十パーセント必達なんだから」

「僕バイトですけど。しかも精虫部門の」

「バイトでも最低一件は取ってもらわないと。とれなかったら、わかってるね。はいこれ、チラシ」

「はーい……うわ、いまウシガエルってこんなにするのか。一時間じゃ足りないな……はぁ。いらっしゃいませー……」

「ちょっとお兄ちゃん!」

「はい?」

「このーなんだ? ウスバなんとかってのはどうやったら食べれるんだ?」

「ウスバ……シロチョウですか、それなら天ぷらかかき揚げですね」

「このウスバカミキリは?」

「フライかかき揚げですね」

「ウスバカゲロウはどうすればいいんだ?」

「すり身にしてハンバーグか、かき揚げとか」

「かき揚げばっかだな」

「それが一番おいしんですよ。虫特有の食感や味が一番ストレートにわかりますから。どうです。今日はいろいろ買って豪華に食べ比べとか」

「ふぅん。まぁいいわ。蝶々だけ買ってこ」

「ありがとうございましたー! さぁいらっしゃいませー、たった今タカアシグモのから揚げが出来上がりましたよー、揚げたてアツアツ!」

「あのー」

「はい? なんでしょう」

「二割引きのシールとかって、何時に貼られるんでしょうかね」

「あー、普段ならあと一時間もすれば貼る時間ですね」

「そうですか……それは鮮魚コーナーも同じなのかしら」

「そうだと思いますよ。確実なことは言えませんが」

「ありがとうございます……」

「ありがとうございましたー……ウシガエルの割引きねらいかな? 毎年売れ残るからなぁ。ありゃシール貼りが大変だぞ。くわばらくわばら」

「店員さん!」

「はい、なんでしょうお嬢さん」

「う、う……ウサギ? のたれってどこですか?」

「う、ウサギ? おつかいかな? ちょっとそのメモ見せてもらっても? ……あぁなんだウナギか! びっくりした」

「ウナギ? なにそれ」

「お嬢ちゃんが生まれるよりも前にいなくなっちゃったお魚さんだよ……あれ、魚なんだっけ? いや確か魚だったような……」

「おいしいの?」

「さぁ、僕も食べたことないし。たれならここをまっすぐ行って、あそこに赤いエプロンのお姉さんがいるでしょ。あの人が売ってるよ」

「ありがとう!」

「どういたしまして! 気を付けてねー……ウナギは魚だったよなぁ? まあいいか……いらっしゃいませー! 絶滅危惧種のウバタマムシを食べるなら今がチャンスだよ! 早くしないとウナギみたいに絶滅しちゃうよ!」

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