VRと天才ゲーマー

※ウザったい文章ですが頑張って最後まで読んでください。


 俺の名前は作道桐戸、普通の高校生だ。ただ人と少し違うのは、ゲーム、とりわけFPSゲームが得意だってことかな。

 FPSというのは、ファーストパーソンシューティングの略。一人称視点で行われるシューティングゲームのことだ。俺は2か月前に発売された新作ゲーム『スペースウォーフィールド』ももう100時間くらいやり込んでて、ランクも最上位近くに位置してる。このゲームは西暦3000年代の宇宙戦争をテーマにしているFPSで、世界中のプレイヤーとリアルタイムで戦えるのが売りだ。

 出てくる武器も普通のライフルやショットガンとかじゃなくて、レーザービームとかその世界観に合わせたものがちゃんと出てくる。架空の武器ばかり出てくるせいでガンマニアからの評判は低いけど、作り込まれた世界観や少しブラックなセンスは俺は好きだ。このゲームは宇宙戦争がテーマといったけど、もう少し詳しく言うと宇宙で新たに発見された惑星が舞台で、プレイヤーは2つの陣営に分かれてその惑星の資源を取り合うというものだ。装備が潤沢なかわりに人を人とも思っていないブラック企業みたいな帝国軍も、装備が貧弱なかわりにプレイヤーが多く設定されていて悲惨な義勇軍といった趣の共和国軍も設定が作り込まれていて本当に面白い。

 FPSの面白いところは、戦略性だ。ただやみくもに撃ったりしてもまず勝てないし、撃ち返されて死ぬのが関の山だ。逆にきちんと頭で考えて、フィールドを駆け巡り自分に有利な状況さえ作れれば、多少狙撃が下手でも勝つことができる。誰にでも平等にチャンスがあるのがこのゲームのいいところだ。


「あー、面白かったな」

 俺はそう呟くと、コントローラーをデスクの上に置いた。今日も高校から帰ってすぐに『スペースウォーフィールド』をプレイしていた。もう2時間くらいやってる。流石に疲れたから、ちょっと休憩を入れようと思ったわけだ。俺は気晴らしがてら、ゲームを閉じるかわりにブラウザを開いた。

「うん?これは?」

 いつも見ているまとめサイトに気になる見出しがあった。『【速報】超リアルなバトロワゲームが出るぞぉぉぉ』というものだった。俺は迷わずそれをクリックする。

「なになに……ベガスタ社がVR対応の新作FPSゲームを出すってことか」

 サイトの情報をまとめると、大体こんなことが書いてあった。海外のゲーム会社で最近も立て続けにヒット作を飛ばしているベガスタ社が新作のFPSゲームを出す。そのゲームのタイトルを『バトルロワイアルインアローン』というんだけど、これは最近発売されたゲーム用のVRゴーグルに対応したもので、リアルなグラフィックでゲームの世界に没入できると言っている。なにより……

「今度のゲームはバトルロワイアル形式?」

 なんでも、今度出るゲームは無人島でのバトルロワイアルをテーマにしたゲームらしい。プレイヤー100名が同時に島へログインし、最後の1人になるまで撃ちあうというものだ。

「へー、これ面白そうだな」

 確認してみると、発売日はなんと明日だった。俺がゲーム機の積まれた棚を確認してみると、ゲームに必要なVRゴーグルはきちんとあった。発売日に買ったものの対応しているゲームが少なすぎて今までほとんど使ったことがないのだ。これはいい機会だ。早速明日買いに行こう。


「よし……ここのスイッチを入れて……」

 俺は翌日、学校が終わると真っ直ぐゲームショップに行って『バトルロワイアルインアローン』を買ってきた。早速ゲーム機に入れてゴーグルをかけ、スイッチを入れた。その途端、視界に一気に砂浜が広がった。

「うわっ、なんだこれ」

 綺麗なグラフィックとは言っていたけど、これはVRの域を超えている!なにせ海風が顔にあたる感覚まであるのだから。いくらVRでも触覚を再現することは出来ないはずだ。

「どうなって……え?」

 いったんゴーグルを外そうと顔に手を当てて、俺はもう1度驚愕する羽目になった。ゴーグルが……ない!

 俺の周囲にも、続々とログインして来た人が現れてきた。みんな自分の感じている感覚のリアルさに驚いたあと、ゴーグルを外そうとしてそれが無いのに気がついてまた驚いていた。

「みなさんごきげんよう!」

 不意に、大きな声が聞こえてきた。その方向を向くと、綺麗な砂浜に不釣り合いなスーツ姿の男がいた。

「ようこそ『バトルロワイアルインアローン』の世界へ。皆さん驚いているでしょう?とてもリアルだから。でもこれはリアルじゃなくてゲームなんですよ、ふふふ……」

 男は不気味に笑うと、俺たちプレイヤーを一望した。

「さて恐らく皆さん初めてだろうから、ゲームのルールを説明しますね。といっても大体知ってると思いますが……ルールは簡単。100人のプレイヤーがいるこの島で最後の1人になるまで生き残って下さい!以上!」

 男は自信満々にそう言い切って、一仕事終えたような達成感を醸し出していた。その説明なら昨日サイトでも読んだから、俺は何言ってんだこいつと思いながらその後の展開を待った。

「あ、そうそう1つ言い忘れるところだった……このゲームで死ぬと現実世界にあるあなたたちの体も死にますから、そのつもりで」

 その言葉を聞いて、動揺がプレイヤーの中に広がっていった。俺も流石に動揺していた。どういう意味だ?ゲームオーバーになると死ぬ?

「皆さんは平日のこんな時間から新作ゲームに没頭している。つまりあなたたちは暇をもてあましこんなゲームに金と時間を浪費するニートか、あるいはその予備軍だ。人間の屑とそのなりかけだ!このゲームはそんなあなたたちを駆除するために政府がベガスタ社と協力して作りました。我々はゲームを売りさばくだけでクズを処理できて、社会福祉費も削減できる。天才的な発想だと思いませんか?」

「な、なに言ってんだお前は!頭おかしいんじゃないのか!」

 プレイヤーの1人が男に歩み寄って怒鳴った。相当混乱しているようだった。無理もない、いきなりこんなことを言われたら誰だって混乱する。

「あまり狼狽えないでくださいよ。私に逆らえばゲーム開始前に殺しますから」

「うるせぇ!俺を帰せ!こんなクソゲーやってられっかよ!おい聞いて……」

 プレイヤーがなおも怒鳴り散らしていると、突然銃声が鳴り響いた。いつの間にか男の手には拳銃が握られていた。デザートイーグル、大口径のリボルバーだ。さっきまで男に詰め寄っていたプレイヤーは腹に風穴を開けて、血を噴き上げて砂浜に倒れ伏した。

「し、死んでる……」

 他のプレイヤーが倒れたプレイヤーに駆けよって確認した。その一言を聞くと混乱していた頭がすっと冷たくなっていくのを感じた。やるしかないようだ。だったら混乱するより冷静でいた方が有利だ。

「あ、あの……」

 あの一連の騒動でもう男に喋りかける者はいないと思っていたが違った。礼儀正しく手を挙げて、少し震えながら前に出てきたプレイヤーがいた。なんと、少女だ。

「はい?なんですか?」

 男も予想していなかったらしく、目を丸くして返事をした。

「あの、私実は兄のゲームを間違って起動しただけで……だからニートとかではないんです。それであの、帰していただけないでしょうか?」

 少女がおずおずと男に向かっていった。周りにいたプレイヤーは、ある者は首を振って目をそらし、ある者は彼女の背後から退いていった。みんなが少女は殺されると思っていた。

「私の話が聞こえていなかったみたいですね」

「……っ」

 予想通り、男は少女へデザートイーグルの銃口を向けた。少女が怯んで後ずさりする。男は親指で撃鉄を持ち上げ、射撃の準備に入っていた。

 普段はそんなことないのだが、俺は考えるよりも先に体が動いていた。幸いにも彼らと俺との間には誰もいなかった。砂を蹴って駆けだすと、男へ飛びかかった。素早く撃鉄を掴んで弾を発射できないようにする。リボルバーは撃鉄をおろした衝撃で火薬に引火させて弾を発射するのだ。それさえ防いでしまえば、デザートイーグルだろうが怖くない。俺はそのままデザートイーグルを男の手からもぎ取ると、男へ向けて銃口を突き付けた。

「面白いプレイヤーもいたもんですね。私から銃を奪うとは」

 男の声が頭上から鳴り響いた。俺が銃口を向けた先には誰もいない。慌てて上を見ると、男は何故か宙に浮いていた。

「今回は大目に見ることにします。あまりプレイヤーを減らしても怒られるので」

「くっ……」

 俺は1発だけ男へ向けて撃ってみるが、弾丸は物理法則を無視して大きく歪んで男を避けた。

「卑怯だぞ!」

「あ、そうそうもう1つ言い忘れていました。このゲームで生き残った人は特殊技能を持っているとみなして自衛隊に高待遇でスカウトしますから、頑張ってください。では皆さんプレイヤーネームを入力してくださいね。30秒後に島の方々へワープさせます。その1分後にゲーム開始ということで」

 早口にそれだけ言うと、男は空中で消え去った。


「プレイヤーネームはいつも通りKiritoでいいか……さてここはどこだ」

 男の言った通り、すぐに俺たちはワープさせられた。俺がいるのは鬱蒼と生い茂る森の中だ。木が多すぎてろくに視界が確保できない。

「なんかデザートイーグルは手元に残ったままなんだけど、まあいいか……」

 俺は取り敢えず武器や回復アイテムの類を見つけようとあたりを歩くことにした。だいたいこういうゲームはどこかにアイテムが落ちていて、それを拾い集めてサバイバルする流れであることが多い。俺たちも最初何も持っていないから、どこかで拾えということだろう。

「俺はまだ慣れてるからいいけど、あの娘とか大丈夫かな」

 すぐにワープさせられたため、結局名前も聞くことが出来なかった。すぐに飛ばしたのは、プレイヤー同士の談合を防ぐ理由もあるのかもしれない。

『KAINNが19ROの殴打によって死亡しました』

 突然視界の左下に、こんなメッセージが流れてきた。慌てて視線を動かすと、そのメッセージは視線と同じ動きをしてついてきた。どうやら画面端に表示されるメッセージのイメージらしい。これで誰がどうやって死んだかがすぐにわかるということか。KAINNや19ROというのは別のだれかのプレイヤーネームだろう。よく見ると右上には『生存数:98』の文字も見える。さっき男が殺したプレイヤーと、さっき死んだKAINNでもう2人死んでいる。結構速いな。

 そんなことを考えていると、突然森の向こうから悲鳴が聞こえていた。女の子のものだ。もしかしたらさっきの子のものかもしれない。俺は大急ぎで声のした方向へ走った。森を抜けると湖のような開けた場所に出た。少し離れたところにさっきの少女と、彼女に近づいて今にも襲いかかろうとしている別のプレイヤーの姿が見えた。太っていていかにもオタクといった感じのプレイヤーだ。

 俺は幸運にも手元に残っていたデザートイーグルを構えて、オタクを狙った。さっき撃ったときにも感じたけど、リボルバーは反動が大きい。いくら慣れていても外す可能性は十分にあったから、少し時間をかけて構えを整え、狙いをつける。時間をかけたと言っても奴にとっては一瞬に過ぎない。十分狙ってところで引き金を引いた。大きな音を立てて弾丸が飛び出し、オタクの腹を撃ちぬいた。

「あぁぁぁっ!」

 オタクは血を噴き上げて喚いた。頭に当てたいところだったけど、外しては意味がないから仕方がない。俺は走って2人にまで近づくと、オタクを図体を蹴飛ばして湖におとした。

『Otakkiyが溺死しました』

 まずは1キル。俺は倒れ込んでいた少女に手を差し伸べた。

「あっ、あなたはさっきの……」

 少女は俺に気がついたようで、手をとると立ち上がった。小柄で髪の長い、可愛らしい少女だ。

「すいません。2度も危ないところを」

「いや、いいんだよ」

 正直なところを言うと、俺は女子が得意じゃない。何を話していいかわからないからだ。

「えっと、俺は作道桐戸っていうんだ。君の名前は?」

「私、小鳥遊恋歌っていいます」

「へぇ。いい名前だね。苗字は変わってるけど」

「よく言われます」

 俺と恋歌は笑い合って言った。

「でもどうしよう……こんなゲーム、私どうしたらいいかわからなくて」

「よかったらだけど……ついてこないか、俺に」

「え、いいんですか?私本当に何もわからないから、足手まといになっちゃいますよ」

「いや、いいんだ。大丈夫、いろいろ教えるから。それに、敵に気づくための目が2倍になるだけでありがたいよ。敵は俺が倒すから心配しないで」

「ありがとうございます……なんてお礼を言っていいか……」

 恋歌は安心したのか、泣き始めてしまった。

「あぁ、すいません。なんだかほっとしちゃって……」

「いいんだよ。心配しないで。恋歌のことは俺が守るから。誰にも傷つけさせな」

『Kiritoが19ROのヘッドショットにより死亡しました』

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