第39話 想い

 なんか、清隆きよたかから衝撃的な告白をされたんですけど。いや、正確にはまだされてないんだけど、その予告みたいなことを言われたんですけど。これから告白みたいなことをされるみたいです。


 清隆の父親って、誰?


「思い込みの激しい奴とは知ってたけど、どこでどう間違えたら俺の親父が周平しゅうへいおじさんになるわけ?」


 周平おじさんって……なに、その他人行儀。どこでって、最初からそうじゃなかったっけ? 違ってたっていうの? なぜか冷や汗をかいて焦りまくる俺に、清隆はわざとらしいほど大きく溜息を吐いてみせる。


「俺の前の名前は上垣、上垣清隆うえがききよたか。親父の名前は上垣庸平うえがきようへい


 その名前を聞いた瞬間、忘れていた記憶が全部戻ってきたような気がした。清隆と初めて会った日の記憶だ。


 そうだ!


 そうだよ。あの日、親父はちゃんと俺にそう言ったじゃないか。全然知らない男の子を連れてきて、そう、言ったんだよ!


「父さんの、本当の弟の子供だよ」


 そうだよ。あの日、親父は俺にそう清隆を紹介した。そして今日から兄弟になるんだよって言った。今日から家族だよって、この家で一緒に暮らすんだよって言ったじゃないか!


 なんで忘れてたんだ?


 ついでにこうも言ってたよな。雅孝またさかの方がちょっとお兄ちゃんだから、ちゃんと面倒を見てあげるんだよって……。

 そういえば日曜日に行った親父の生まれ育った集落、あそこで会ったおっさんが言ってたっけ。10年くらい前に庸平さんと会ったって。その時、小さな男の子を連れていたって。たぶん俺と同じくらいの歳だったんじゃないかって。


 清隆のことだったんだ


「お前はさ、ちょっと歳上だからって、なんでもかんでも1人で背負い込みすぎ! むかつくんだよ! 俺、そんなに頼んねぇっ?」


 いや、そういうわけじゃないんだけどさ。うん、そういうわけじゃないんだ。たぶん俺は嬉しかったんだ。一人っ子だったし、弟が出来て嬉しかったんだと思う。もう覚えてないけど……ってか、そこんとこは思い出せないんだけど、思い出せなくてもいいっていうか、思い出したくないっていうか……。


 なんか恥ずかしい


 清隆の母親は、清隆が生まれてすぐに病気で亡くなっていたらしく、庸平さんも病死だったそうだ。独り残していく清隆のことを心配して、庸平さんは親父に清隆のことを頼んだらしい。そういえば今思い出せば、清隆と初めて会った日、あの時親父は黒いスーツを着ていたように思う。


 喪服だったんだ


 ま、あの親父が断るわけないよな。あの人はそういう人なんだから。そこからどこをどうして実の兄弟になったかは全く覚えていない。もちろん俺が勝手にそう思い込んだだけなんだろうけど、全くもってわからない。

 だって俺、親父に浮気疑惑を掛けてるんだぜ。俺ってどんな子どもだったわけ?


 どんな記憶操作だよ?


 けど、そうまでして清隆を本当の弟だと思いたかった理由は、なんとなくわかる。結局俺は嬉しかったんだと思う。そうして俺たちは兄弟になったわけだ。


「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」


 ちょっと言いにくいんだけど、将を射んとせばまず馬を射よって言うもんな。せっかくこうやって落ち着いて話す機会が出来たんだ。母さんに相談する前に清隆に話してみようと思ったんだけど、清隆の奴、俺はまだなにも言っていないのに……


「いいんじゃないの?」

「いいんじゃないって、俺、まだなにも言ってないんだけど」


 安請け合いして後悔しても知らないぞって俺は言ったんだけど、清隆の奴、聞かなくてもわかってるって感じ。それどころかちょっと小馬鹿にした感じで笑いやんの。


「お前さ、本当にそういうところ、おじさんにそっくりなんだよ」


 同じことを母さんにも言われたような気がするけど、余計なお世話なんだよ。


雪緒ゆきおって子のことだろ? 俺は別にかまわないけど」


 本当にわかってるみたいだ、俺が言いたかったこと。きっと今の雪緒の気持ちはこいつが一番わかるんだろうな。同じ経験をしているこいつだから、わかるんだと思う。

 なんか、ちょっと皮肉だよな。親父たちは一緒に生まれてきた兄弟だったのに、一緒には暮らせなかった。3人バラバラで、時々連絡を取るくらいしか出来なかった。その親父たちが別れた同じくらいの歳に、俺と清隆は兄弟になって一緒に暮らし始めた。なんか、一緒にいられなかった親父たちの代わりみたいだよな。

 3人それぞれ子供が1人ずつっていうのも暗示的だし。きっと親父は、清隆はもちろんだけど、雪緒のことも気に掛けていたんだと思う。母さんも言っていたけれど、結局あの人はそういう人なんだ。親父の指紋に端を発した今回の騒ぎそのものが、俺たち3人を出会わせるために親父が仕組んだものだったのかもしれない。


 ひとりぼっちにならないように


 そんな親父の願いだったのかもしれない。どこまでも親父はお兄ちゃんだったわけだ。清隆は怒るかもしれないけれど、実際に俺は歳上で 「お兄ちゃん」 なわけだし、親父の代わり、俺がやってもいいよな?


 航平こうへいさんの葬式とか、警察の事情聴取とか、入院中もずっとばたばたしていて、退院したらしたで、今度は学校を休んでいるあいだの授業を取り戻すのに大忙し。ま、これは元がいいからすぐになんとかなったんだけど、清隆の粗暴さは相変わらず。手続きとか色々あって時間がかかったんだけど……実は航平さんと雪緒のお母さんはちゃんと結婚していなくて、いわゆる内縁の関係。そういうこともあってちょっと普通より手続きがややこしかったらしいんだけど、半年後、俺たちは2人兄弟から3人兄弟になった。

 今度3人で、親父たちが生まれたあの集落に行こうと思う。そしてあのおっさんに会おうと思う。


                ー 了 ー

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死んだはずの親父が殺人現場に指紋を残していました ~え? とっくの昔に骨ですよね? 指紋ありませんよね? 藤瀬京祥 @syo-getu

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