第36話 願い
本当はこんな時間の外出は出来ないらしいんだけど、会う相手が保護者で、行き先は自分の家ってことで特別に許してもらったらしい。雪緒の場合はちょっと事情が事情だし、施設の職員ももちろんそのことを知っていたから特別に。
だから俺との待ち合わせも、施設からちょっと離れた場所で。
誤解されたくないし
別に悪いことをしてるわけじゃないけれど、説明するのがややこしいじゃん。面倒だしさ。
そもそも雪緒にはまだ、父親が 「
面倒くせぇ……
唐突すぎて、まず雪緒が信じてくれるかどうか怪しいもの。あの感じじゃ、俺と同じく、雪緒も親父たちが三つ子だってことを知らなさそうだし。となると、簡単には信じてくれないと思う。で、雪緒が信じてくれないんじゃ、絶対施設の職員が俺の話なんて信じてくれるはずもない。それを承知で説明をして納得してもらっていたら、到底約束の時間に間に合わないと思う。
雪緒の話じゃ、携帯電話に父親から電話があって、話がしたいから店に、誰にも言わないで1人で来て欲しいって言われたらしい。これってつまり、航平さんは自分が警察に追われてるっことをわかってるってことだよな。そんでもって居所を知られたくないから雪緒に口止めして、1人で来いって言ってる。ひょっとして航平さん、犯人確定?
ちょっとヤバくね?
すげぇ嫌な予感がして俺も一緒に行くことにしたんだけど、ひょっとしたら雪緒にも何か予感めいたものがあったのかもしれない。だから俺に連絡してきたのかもな。あるいは会っても何を話せばいいのか、わからないからかもしれない。何しろ俺自身、航平さんと会ってどうしたらいいのかわからないんだから。正直、何を話せばいいのかもわからなくてさ。
でもまぁ、航平さんの口から本当のことを言って欲しいと思う。誰が雪緒の母親を殺したのかってことはもちろんだけど……あ、これは航平さんが真犯人を知ってる場合の話だな。でも少なくとも自分が 「穂川周平」 じゃなくて 「倉橋航平」 だってことはちゃんと自分の口から雪緒に話してやって欲しい。
だってさ、いつかは誰かが話さなきゃならないことだ。そりゃ従兄弟ってことで俺や
外からは中が見えない、窓がない店。入り口のドアはガラス張りだけど、シャッターが下りていて店内は見えない。だから中に入るまでわからなかったけれど、店内には照明が点いていた。その薄暗い明かりで見た、広くない床に人が転がっていたのだ。
L字型のカウンターに沿うように並んだ椅子と、3つだけあるテーブル席。その間に人が窮屈そうに寝転がっていた。俯せに、腹を抱えるように膝を曲げてて顔は見えない。俺は雪緒を裏口近くで待たせてその人に近づいた。
心臓バクバク
口から心臓が飛び出そうなくらいバクバクしてる。背中しか見えないから歳とかはわからないけれど、少なくともおっさんだ。30とか、40とか、50とか、ちょっと幅がありすぎるけど、そんな感じの歳かな、たぶん。だって背中しか見えないんだから、仕方ないだろ?
薄暗いからよくわからないけれど、着ている服とかあんまり綺麗な感じじゃなくて、ズボンもしわが寄っている。これさ、あれだよね、作業服っていうの? あれだよ。上着もよく見れば、そう。靴はスニーカーだけど、履き潰れる寸前って感じでかなり汚れてる。
この人、誰だよ? ひょっとして倉橋航平さん? それとも別の人? なんでこんなところに寝転がってるわけ?
「大丈夫ですか?」
声を掛けながら、ゆっくり、慎重に近づく。だってさ、なんかやばそうじゃん。迂闊にズカズカ近づいて、急に起き上がってきて襲われたら怖いじゃん。
でもその人は身動きしなかった。けどかすかに呻き声が聞こえたような気がして、そばに屈んでみようと思ったんだけど、なにしろ狭い。足場がなくて戸惑っていると、急に後ろで雪緒が声を上げた。
「危ない!」 ……つづく
【後書き】
なに、この展開?
なんか終わりに来て急転直下で俺、やばい感じなんですけど……。もう全身汗びっしょりなんですけど。誰かタオル貸してくんない?
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